人間の死亡率は、何パーセント?
ところで、皆さんに訊いてみたいことがあります。「死亡率」についてです。
死亡率というと、よく、「がんの死亡率」についての話になりますよね。いま、日本人の二人に一人ががんになり、三人に一人が、がんで死んでいくとか、そういう話はよく耳にすると思います。
では、「がんの死亡率」ではなくて、「人間の死亡率」はどうでしょう。何パーセントだと思いますか? 答えられる人、どうぞ。
―――100パーセント? 正解です。人間の死亡率は、医療が発達した今も、当たり前ですが、100パーセントなんです。つまり、ここにいる若い皆さんも、決して他人事ではないということ。誰もが、いつか、当たり前に、死んでいく。この世に生まれたありとあらゆる生物には、「死」があるわけです。永遠を生きるなんていうことは、ない。だから、死を一人称、自分自身の問題として考えてほしいのですが、これがなかなか、むずかしいのです。
厚生労働省の人口動態統計によれば、日本で昨年(2014年)に亡くなった人は126万9千人です。ちなみに出生数、つまり毎年生まれてくる人間はどれくらいいるかというと、昨年に生まれた赤ちゃんの数はおよそ100万人でした。ちなみに、出生数が死亡数を下回ることを、「自然減」と言います。我が国は2014年で8年連続の自然減となり、しかも昨年は、過去最大の自然減だったそうです。
この国の死亡数。増えているのか? 減っているのか?
皆さんに、もう一つ訊いてみたいことがあります。
「日本人の死亡数」についてです。これは二者択一で問うてみたい。
日本人の死亡者は、年々、増えているでしょうか? 減っているでしょうか?
――― そう、皆さん正解です。もちろん増えています。東大生に向かってくだらない質問をするな、と思っていませんか(笑)、だけどね、これ、くだらなくないのです。
実は昨年、あるがんセンターで医療者向けに講演をさせて頂きました。がん専門の、偉いお医者さん達ですよ。その方々に向けて、今と同じ質問をぶつけてみました。すると、そこにいらしたお医者さんの9割が、「死亡者は減っている」と答えたのです。私はさまざまな場所で、同じ質問を試みるのですが、不思議なことに、医療レベルが高いと言われているところ……がんセンターとか、大学病院とか、そういうところにおられるお医者さんのほうが、「減っている」に挙手するのです。
また、私のクリニックでは、毎年いくつかの病院から研修医を迎え入れています。一流大学を優秀な成績で出た研修医の彼らと一緒に、在宅医療をまわります。彼らの多くも私の質問に対し、「死亡者は年々減っている」と答えます。「どうして減っていると思うんだい?」と訊ねると、こういう答えが返ってきます。
「だって先生、医療が昔よりも発達しているじゃないですか」と。
(続く)
(参考文献) 「長尾和宏の死の授業」(ブックマン社)