《1792》 平穏死・尊厳死・安楽死 何が違うのか? [未分類]

長尾和宏の死の授業 in 東京大学・6》

平穏死・尊厳死・安楽死 何が違うのか?

長尾  尊厳死と安楽死は、端的に言うと、どこが違うと考えますか?

学生V  尊厳死は、患者さんの意思を尊重して、リビングウィルで延命治療をしなくていいと書いてあったら、延命治療をやめることです。それで、安楽死は……どちらかっていうと、医療者サイドの「死」というか……お医者さんが、本人の痛みを取ってあげる行為というか。

長尾  痛みを取ってあげること? それは、緩和治療というんじゃないかな。痛みを取ってあげた先にある結果のことを言っているのかな?

学生V  はい。それで、楽になって死を迎えることだと。

長尾  ありがとう。う~ん、わかったような、わかんないような説明だね。

もしも、あなたたちが医療者として、現場に立った時。患者さんから、尊厳死と安楽死はどう違うんですか? と訊かれたら、どんなふうに答えますか?

学生VI  安楽死とは、患者さんとの意思とは関係なく行われる行為ではないですか?

長尾  なるほど、あなたは、尊厳死は患者さんの都合で行われ、安楽死は医者の都合で行われるようなイメージを持っているわけですね。他には?

学生VII  安楽死は「殺す」こと。尊厳死は「放置」することだと思います。

長尾  なるほど、わかりやすいですね。ではもう一人、あなたの意見は?

学生VIII  尊厳は治療をせずに、その人の持っている力に任せることで、安楽死は薬剤とかを使って殺しちゃう行為です。

学生IX  尊厳死は患者さんの生き方、意思を反映した治療のしかたで、安楽死は患者さんの苦しみを取り除いてあげることを目的としたもの、と捉えていました。

長尾  皆さんそれぞれに、少しずつ違ったイメージを持たれているようですね。実は、安楽死、尊厳死、そして僕がいろいろ書いている平穏死というのは、連続したものなのです。安楽死、尊厳死は広辞苑に載っていますが、平穏死という言葉はどの辞書にも載っていないはずです。実はこれは、石飛幸三先生という医師が作った造語なのです。

「平穏死」という言葉を用いてたタイトルで本を書いているのは、私と石飛先生しかいないと思います。平穏死。これは簡単に言えば、自然死のことなんです。たとえば、口から食べられなくなった時に、胃ろうを造るのか、それとも鼻からチューブ栄養をするのか……そういう選択を迫られます。その時に、そういう選択をせずに、食べられなくなったのなら、自然に任せて、そのまま枯れるように亡くなるほうが、実は穏やかな最期を迎えられますよ、というメッセージなのです。

実は尊厳死と平穏死の概念は、非常に似ています。似ているけれど、尊厳死のほうが、より広い概念なのです。

(続く)

(参考文献) 「長尾和宏の死の授業」(ブックマン社)