《長尾和宏の死の授業 in 東京大学・13》
14歳少女が「お願い。死なせて…」。さて君はどう答える?
長尾 さて、もう少し、最近の話題から「死」について皆さんと考えていきましょう。
つい先日(3月1日)、こんな報道がありました。
<以下、AFP通信の記事より http://www.afpbb.com/articles/-/3041100>
【3月1日 AFP】難治性の遺伝病「嚢胞(のうほう)性線維症」に苦しむチリの14歳の少女が安楽死を認めてほしいと訴える動画をインターネットに公開したことを受け、ミチェル・バチェレ大統領は2月28日朝、カルメン・カスティージョ保健相を伴って事前の予告なく少女の入院先の病院を訪問した。
首都サンティアゴにあるカトリック大学病院に入院しているバレンティナ・マウレイラさんは、両親も知らないうちに病室のベッドでスマートフォンを使い自ら動画を撮影。動画共有サイトのユーチューブに投稿していた。
大統領に宛てたメッセージの中でバレンティナさんは、「この病気を抱えて生きるのに疲れた。すぐに大統領と会って話がしたい」、「大統領が注射を許可してくれれば、永遠に眠れる」などと訴えていた。バレンティナさんは「安定した状態」だが、この病気の患者は肺など重要な臓器の機能が低下し、呼吸不全やその他の多くの症状に苦しめられる。
《後略》
(c)AFP
長尾 今後も、こうしたニュースが必ず報道されることでしょう。14歳の少女であっても、SNSを使って世界中に「死にたい」と発信できる世の中になったのですから。
しかし、日本のメディアの多くは、ブリタニーさんのときと同様、「死なないでほしい」という感想レベルの解説しかしていなかった。
世界のニュースから、日本の尊厳死法案のあり方を考える大変良い機会にもかかわらず、テレビも新聞も「まだ若いのだから、頑張って生きて」というような精神論でしかメッセージを発信できないのは残念。
バレンティナさんは、「もう頑張れない」と思ったから安楽死の希望を出したのです。そして私は、チリ政府の大人の対応は素晴らしいと思いました。日本で同じことが起きたとき、我が国の首相はこうした対応ができるのでしょうか。
緩和ケアが存在しない国がまだたくさんある!?
生徒II 私も、長生きしたいとは考えていません。
長尾 つまり、14歳の彼女の気持ちがなんとなくわかるということかな?
生徒II はい、世間でいう、いわゆる「生き甲斐」がない状態で生きるのはどうかと。
長尾 他の人はどう思いましたか?
生徒X 自殺したいけど、できない状態ですね。難しいです。
長尾 自殺できないから、彼女は「安楽死」を求めているということですね。
生徒X でも、だからといって、その国の大統領がお金を差し伸べるっていうのも、どうかなと思う。
長尾 確かにそれは一理ありますね。他に意見がある人は?
生徒IX 先ほど長尾先生がお話しされたように、この少女は「うつ状態」にあるのではないでしょうか? 痛みでうつ状態になり、端的な視野で物事を考えちゃっているんじゃないかと思います。
もう少し、緩和ケアがあってもいいのではないでしょうか。緩和ケアを続けているうちに、不治の病といわれているものが治る薬ができるかもわからないですし……。
長尾 素晴らしい意見だと思います。ありがとう。私自身も、今のあなたに近い感想を持っています。
私がもし、彼女の主治医になったなら、もっと緩和ケアを施したい。でも私が調べたところ、世界の4分の3の国には、緩和ケアという概念がまだ存在しないようです。
生徒IX えっ!?
長尾 つまり、チリ政府の対応は素晴らしいかもしれないが、そもそも、日本と違って緩和ケアを行うためのインフラが整備されていない。こうした社会制度の土台がまったく違うので、単純な比較はできません。
(続く)
(参考文献) 「長尾和宏の死の授業」(ブックマン社)