「私ってがんかもしれない…」 自覚症状はどんなふうに表われるのか?
Q. 胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん等……長尾先生が「がん」を発見した人は、どんな自覚症状を訴えて最初にクリニックを訪れますか?
それぞれのがん種別に、こんな症状が出たらほぼ確定、と言える症状があれば具体的にお願いします。
がんは基本的に自覚症状が無い病気だと思っていたほうがいいでしょう。
最近、身近な知人が2人旅立たれました。
黒田裕子さん(災害看護師)は、自覚症状が出て1カ月後に旅立たれました。(肝臓がん)
小山剛さん(介護のカリスマ)は、自覚症状が出て3週間後に旅立たれました。(膵臓がん)
自覚症状が出た時にはもう手遅れ、というのががんという病気。
そんなことくらい知っているぞ! という人が多いのかもしれません。
しかし身内ががんになった時に、怒鳴り込んで来る家族がよくおられます。
「ずっとお宅にかかっていたのに、どうしてがんを見つけられなかったのか?」
自覚症状が出た時には、少なくとも「早期がん」ではないことが大半です。
「進行がん」=末期ではありませんが、完治する確率はかなり下がります。
従って「絶対にがんで死にたくない」と思うのであれば、自覚症状の無い時に
こまめにがん検診を受ける以外に方法はありません。
ところで『がん検診』と『保険診療でのがん検査』の違い、分かりますか?
- 自覚症状あり = 健康保険適応での検査
- 自覚症状なし = 健康保険は効かないので、自費でがん検診
となります。
無症状の方に、健康保険でがん検診をすることは法律で禁じられています。
従って自費で受けるか、市町村が行うがん検診を利用するしかありません。
よくある自覚症状を挙げておきます。(出た時にはかなり進んでいますが)
あくまで、がんと絡めた話ですので、そんな場合もある、とご理解ください。
- 体重減少 → 胃がん、膵臓がん
- 喉の詰まり → 食道がん、咽頭がん
- 黄疸 → 胆のうがん、胆管がん、膵臓がん、肝臓がん
- 血便 → 大腸がん
- 血尿 → 膀胱がん、腎臓がん、尿管がん
- 不正出血 → 子宮がん
- 息苦しさ → 肺がん、アスベスト中皮腫
- 腹部膨満 → 腹水貯留、腸閉塞(大腸がん)
- 体表リンパ節の腫れ → 悪性リンパ腫
- フラフラする(貧血) → 胃がん、大腸がん
- 乳房のしこり → 乳がん
- 長引く頭痛やめまい → 脳腫瘍
こうして書いていて気がついたのですが、“痛み”はありませんね。
一般の方は、がんの自覚症状=痛み、だと思われているかもしれませんが
それはがんの最終症状であったり、骨への転移に伴う場合が多いです。
多くは、全身倦怠感や食欲不振、そして体重減少でしょうか。
いわゆる“不定愁訴”と受け止められる場合も多いようです。
大学病院は臓器別縦割りなので、いくつもの診療科を回りまわって
はじめて診断がついた、しかも末期がんだった――そんなこともあります。
昨年あったケースでは、息苦しさである大病院に入院して
呼吸器内科 → 循環器内科 → 下部消化器内科 → 上部消化器内科と回されて、
3カ月後にやっと“食道がん”という診断がついた患者さんがいました。
当院なら1時間で診断がついたのですが、大病院だったので3カ月もかかったそうです。
“末期食道がん”という診断がついて退院した3日後に亡くなられたので、家族は激怒。
明らかに末期がんの症状が出ていても、大病院ではがんだと分からないことがあります。
私なりに、これだけでがんと分かる典型的なケースを書いておきます。
- タバコとお酒が大好きな男性が、物が詰まると来院 → おそらく食道がん
- 急激な体重減少と食欲低下があると来院 → おそらく胃がん
- 便に血が混じり、親兄弟に50歳以下の大腸がんがいる → 大腸がん濃厚
- ヘビースモーカーが血痰で来院 → おそらく肺がん(主に扁平上皮がん)
まとめますと、がんの自覚症状が出た時には、もはや遅いという場合が多い。
だから、働き盛りの人は、無症状の時にがん検診を受けるしか方法がありません。
ただし「がんで死ねたら本望」と本気で考える人は、中途半端に受けないほうがいかも。
(続く)