《1810》 医師は、どんなふうにがんを告げるの? [未分類]

「がん医療、ここが分からない」シリーズ・3

バッドニュースの伝え方……医師は、どんなふうにがんを告げるの?

Q. 長尾先生は、がんを見つけた患者さんに、どんなふうにがんであることを告げますか?

ご家族がいる場合は? 若い患者さんとご高齢の患者さんでは、伝え方を変えますか?

また、ステージIで見つかった場合と、ステージIVで見つかった場合では伝え方は変わると思うのですが、何にいちばん気を遣ってお話をしますか?

これは難しい質問ですね。
ちゃんと答えるなら1時間はかかりますよ。(笑)

がんを見つけて、すぐに「がんです」と伝える場合と、伝えない場合があります。
本当は優しくゆっくり説明したいところですが、必ずしもそうできない場合が多い。

キーワードは、本人ではなく“家族”です。

「なぜ、親父にがんを宣告したんだ!」と怒鳴りこんで来る息子さんがいるからです。
「かん宣告=死」だと思っているので、親に死の宣告をした、と思いこんでおられるのです。

いまどき、よほどボケてでもいない限り、本人はがんだと分かる時代です。
100歳の方でも「自分はがんです」と普通におっしゃる時代なのに、子供世代に偏見がある。

ですから、がんだと判明しても、私は急いで直接的な説明はしないように心掛けています。
家族を呼んで一緒に説明する場合と、別々に説明する場合があります。

先に説明しないと怒る家族も多い。
しかし反対に、先に家族に説明すると、本人が激怒する場合もある。

どちらのパターンなのかをお話で探りながら、最初の説明の相手を決めていきます。
まずは「がんの可能性があるので、もう少し詳しく調べてみませんか?」と言って反応を見ます。

実際、がんがあることよりどんなステージ(進行度)なのかの方がずっと気になります。
ですから私の所では、画像診断で遠隔転移まで調べて、暫定的でもステージを推定します。

  • 早期がん(ステージI) = 助かる可能性が高い
  • 進行がん(ステージII、III) = 助かる可能性が高くないか、低い
  • 遠隔転移あり(ステージIV) = さらに低くなる

当たり前ですが、もし早期がんであれば、それはバッドニュースではなくグッドニュース。
「よかったですね。ラッキーですね」となり、説明をするにはむしろ好条件となります。

しかし進行がんの場合、説明の仕方を聞かれたら、少々悩ましいものです。
先述したように、説明の仕方を家族と十分に相談してから、本人に説明することが多いです。

特に、ステージIVで遠隔転移が見つかった場合の説明は、まさにケースバイケースです。

  • がんの治療をするか、しないか
  • そもそも、なんのための説明なのか

などを考え、顔色を見ながらゆっくりお話をします。

がんの治療は、

  • 年齢
  • 認知症や理解力の程度
  • がんの臓器
  • がんの種類
  • がんの悪性度
  • がんの進行度
  • 今後、予想される療養形態

などにより、さまざまな選択肢があります。

3大標準治療をするにせよ、施設によってやり方がかなり違うことがあります。
先進医療や代替医療を併用する方も少なくありません。

従って、予想される今後の医療によって、伝え方が180度変わることがあります。

想像してみてください。

「30歳のステージIVのスキルス胃がん」と
「90歳の高度認知症の方の進行胃がん」では、
予想される療養状況は、まったく異なるのではないでしょうか。

何に気を遣うのか? については、私のつたない説明ひとつで今後の療養方針が
大きく変わる可能性があるので、責任を噛みしめながら説明します。
あらゆる可能性を想定しながら、です。

キューブラーロスの“死への5段階”は有名です。

  1. 否認
  2. 怒り
  3. 取引
  4. 抑うつ
  5. 受容

患者さんと家族が、私の説明で(1)~(5)のどの段階まで行けそうか?
なんて思い浮かべながら、おっかなビックリでの説明するのが現実です。

万一でしょうが、(4)の抑うつに留まり自殺企図されるかもしれません。
しかしそれが怖くて「一切説明しない」でも困りますし、難しい命題です。

説明するかしないか、ではなくて、どのような説明をするのかが大切です。
ですから、私は「告知」という言葉を使いません。

まあ、難しそうなことを書いていますが、実際は町医者ですから瞬間的に、
直感的に、患者さんのためになる情報なのかよく考えながら話をしています。

(続く)