バッドニュースの受け止め方……もしも、「がん」と言われたら?
Q 長尾先生が「がんです」と伝えたとき、患者さんはどのような表情、返事をされますか?
取り乱す人、冷静な人、それぞれだと思いますが、今までで印象に残っている患者さんがいたら教えてください。
絶対に認めないという人や、がんと言われても何も治療するつもりはないといった、困った患者さんの例もあれば。
また、長尾先生ご自身が「がんです」と言われたなら、その医師とどんな会話をされますか?
シミュレーションをお願いします。
A いきなり「あなたは、がんです」という言い方をすることは、実際にはあまりないでしょう。
既に前医からがんであると説明されている人もいますし、当院では、
「がんの可能性があるので検査しましょう」という前振りがあります。
だから患者さんはすでに「がんじゃないかな?」と覚悟して来られます。
また私は最終診断者ではないので、「がんです」と断定的に言うことは少なく、あくまで「がんの可能性が高いです」というニュアンスで説明いたします。
そしてできるだけご家族にも来て頂いてから一緒に説明を聞いてもらいます。
がんの説明に対する反応は、人それぞれです。
もちろん泣かれる人もいれば、茫然とする人もおられます。
反対に、もう覚悟ができている人は、「やっぱり!」と言われます。
総じて淡々とがんであることの説明を聞かれる方が多いかと思います。
本人はいたって平気なのに、家族が取り乱すことがあります。
この世の終わりかと思うくらいパニックになったり落ち込む家族もいます。
まれに、「嘘だ。そんなはずは無い!」という反応をする人もおられます。
そのお気持ち、私もよーく分かります。
がんであることを知っても、病院への紹介を拒否される方が、時々おられます。
医療否定本の影響を受けている人と自分の哲学でそう決めているという人がいる。
高齢者や認知症の人の中には、私の説明が理解できない人もよくおられます。
ご家族とも疎遠なため、説明自体が1ケ月以上もできないこともあります。
バッドニュースの伝え方は、医師によりかなり違うのではと想像します。
というのも私自身、他の医師がどのように説明しているのか知りません。
大切なことは、進行がんの場合、説明は1回とは限らないことです。
できれば一晩空けて、2回でも3回でもゆっくり説明したいものです。
もし僕自身ががんと言われたら、ですか?
こうして偉そうに書いていますが、多分、かなりショックを受けると思います。(笑)
毎日、「自分自身、すでにがん患者ではないか」と思いながら生きていますが、それでも何かの拍子に、本当に がんをかかえていると分ったら、考えるでしょうね。
やはり仕事(町医者としての診療)の都合を一番に考えることでしょう。
患者さんに迷惑をかけたくない、という想いが前面に出るような気がします。
僕は若い頃、タバコを吸っていたので肺がんになるかも、という思いが常にある。
また、胃がんや大腸がんや膵臓がんを毎日のように見ているので気にはなります。
しかし、そうは言ってもイザ当事者になるまでは、第3者のままだと思います。
「がんは所詮、人ごと」と心の中では思いながら生きているような気がします。
あと、僕は医者なので、がんであること自体よりも助かる可能性が高いか低いかのほうを一番に知りたいと思うでしょう。
早期がんのように助かる可能性があれば、がんと闘うかもしれませんが、ステージⅣのように助からない可能性があれば、案外早く降参するかも。
余談になりますが、ネットで「がん患者さんの闘病記」を時々読みます。
医者の知らないところで本当にこんな御苦労をされているな、と驚くことばかり。
自分だったらそこまで頑張って闘うことはできいないだろうな、と思うことも多い。
医者は案外、患者さんよりがんという病気に弱い人種ではないかと想像しています。
(続く)