標準治療って誰が決めたの?
Q 手術・抗がん剤・放射線治療をなぜ標準治療と呼ぶのですか?
そもそも誰が決めたのでしょう?
私は先日、卵巣がんが再発しました。
「もう抗がん剤はイヤなので、免疫療法をやりたい」と主治医に言いましたら、「標準治療以外のものは、私は勧められないので、もし免疫療法をやるのならあなたの主治医はできない」と言われてしまいました。ものすごく軽蔑しきった表情でした。
標準治療以外のものを選ぶ患者は、バカですか?
A 標準治療は、それぞれのがんの専門家が集まった医学会が決めるものでしょう。
その時代その時代で最高に優れているとされる治療法を専門家が決めるのです。
がん対策基本法には、がん治療の均てん化が謳われています。
どんな地域に住んでいても同じ医学レベルの治療が受けられる権利を保障しましょうと。
そのためには、その時代の一番いいやり方を、標準治療として推奨するわけです。
その根拠になるのは医学論文、つまりエビデンスです。
巷で売れている本には、標準治療が悪いように書かれていますが、間違いだと思います。
あくまでその時代に一番いいエビデンスが揃ったやり方をただ挙げているだけなのです。
そのとうりにやらないといけない、という訳では決してありません。
ただ患者さんが医者を訴えた場合、それを裁く裁判官は標準治療に照らして判断するはずです。
つまり標準治療は、あくまでひとつの道標にすぎず絶対に従うべき、というものではありません。
がんの治療には個別性が重視されるので、標準治療をどう使うかは患者と医師の相談によります。
もし問題があるとすれば、標準治療を金科玉条のように振り回すがん専門医がいる場合です。
患者さんの想いと全く違う治療法を一方的に押し付けられたら患者さんは泣き恨みだけが残る。
さて免疫療法の効果に関しては、多くの医師は懐疑的だと思いますし、私もそのひとりです。
理由は2つ。きわめて単純です。
- エビデンスが乏しい
- あまりにも高価である
実際、エビデンスは貧弱だと思います。
あと、何百万円かかるということは、あまりに高価な治療法だと思います。
決して裕福でない患者さんの家族が、ローンを組んで免疫療法を受けました。
2~3回だけ受けたところで、患者さんは旅立たれ、家族には借金だけが残りました。
多くの臨床医はそうした現実を知っているので、免疫療法を良くは思っていません。
一方、ワラでもすがりたい末期がんの患者さんは蜘蛛の糸に僅かな望みを託します。
免疫療法という発想自体は悪くないし、私は大好きです。
免疫力を上げる補中益気湯のような漢方薬や笑い療法や生きがい療法も免疫療法だと思います。
早く言えば、金儲け主義か、良心的か、という話だと思います。
高額な医療費の実態を見れば、金儲け主義という誹りは避けられないでしょう。
その免疫療法を家族が口にした途端に、烈火のごとく怒る主治医の気持ちはよく分かります。
しかしそこはグッと我慢して患者さんの考えを聴ける余裕のある医療者であって欲しいです。
標準治療以外の医療を選ぶ患者さんをバカとは思うはずは無いはずです。
私は一緒になって考えたり、調べたり、応援することが多い。
免疫療法はまだまだ発展途上で、ヨチヨチ歩きの赤子でしょ。
そんな状況の中で患者さんを批難することは間違かもしれません。
いずれにせよ、標準治療への批判として免疫療法を受ける人が増えています。
しかし主治医とよく相談して、患者さんの様々な想いに寄り添うことが大切です。