早期がんの定義って何ですか?
Q 「どんながんでも早期がんならほぼ助かる」と本に書いている医師もいますし、早期だからといって助かるとは限らないと書いている医師もいます。
またある医師は、「早期がんなどそもそも存在しない」と本に書いていました。長尾先生は、先日、何らかの自覚症状があったときはもはや早期がんではないというような旨を書かれていました。
逆に言えば、自覚症状が出たときは、「ほぼ助からない」と考えていいのでしょうか?
しかし、検診で見つかったがんでも、そもそも10年以上前から体内に生まれていたものなのですよね?いろいろな医師の本を読めば読むほど、何をもって「早期がん」と言っているのか、イマイチよくわからなくなってきました・・・
A "早期がん"という概念を、日本人に特徴的とも言える胃がんで考えてみましょう。
早期発見・早期治療すれば完治する可能性が高いという発想から生まれた概念でしょう。
胃がんの場合、がんはまずは粘膜の表面から発生します。
そのがんが粘膜層~粘膜下層に留まる状態を"早期胃がん"と呼ばれています。
がんが筋肉層より深く進行すると進行がんと呼ばれます。
通常、内視鏡専門医が内視鏡で診れば、ある程度、進達度が推定できます。
胃の壁の中をどの深さまで、がんが潜っているのか(=進達度)がなにより大切です。
意外に思われるかもしれませんが、病巣の粘膜面の広がり(大きさ)とは無関係です。
たとえ直径10cm以上のがんであっても、進達度が粘膜層に留まっていれば早期がんです。
すなわち、やはり早期胃がんとは、手術で命が助かる可能性が高い範囲を、指しています。
早期胃がんという概念はありますし、非常に大切なものだと思います。
胃がんに習い大腸がん、食道がん、胆のうがん、乳がん等でも早期がんという概念ができた。
何をもって「早期」と定義するのかは、それぞれの臓器によって異なります。
各医学会の専門家がエビデンスに基づき定義しては、年々、改訂されています。
一般的には早期がんの段階では、無症状のことが多いです。
だから無症状の時に行うがん検診が推奨されているのです。
反対に、自覚症状が出てから見つかったがんが助からないか、というとそうとは限りません。
胃がんでも乳がんでも自覚症状が出てから発見されても完治する場合はいくらでもあります。
まして、大腸がんでは、複数の遠隔転移があっても完治することがあります。
あくまで、早期のほうが完治する確率が高いという意味です。
早期がんなど存在しない、と主張される医師がいますが、私は全く理解できません。
早期がんを患者の意思で放置しているうちに進行がんになり亡くなった人がいるからです。
この人は、その何年か前であれば、治療で完治したはずですが、その機会を逃しました。
そう考えると、やはり早期がんという概念で捉える思考が必要なことが理解できるはず。
早期がんだと思う病変でも稀に治療後に再発して、完治できないこともあります。
しかしそうだからと言って「早期発見・早期治療は意味が無い」というのは論理の飛躍です。
従って
- がんという病を早期がんという概念で考えることは大切であり
- 早期発見・早期治療を掲げる戦略は間違っていない、と言えます。
ただしそうすると現実には、過剰医療になる懸念もあります。
高齢者やQOLの低下した人は以上の論理から得られる利益と不利益を天秤にかける必要がある。
たとえば、90歳の人に偶然発見された早期大腸がんであれば、がんで死ぬまでに何年もかかるはずなので、それまでに寿命が来るので、治療をせずに放置、という選択肢も充分あります。
その極めつけは甲状腺がんです。
一部の甲状腺がんは、がんを一生放置しても死なないことが分っているので放置することが多い。
「早期」という概念は医学や医者のためではなく、あくまで患者さんの利益のために生まれた概念。
以上の経緯を理解して、がんという2人に1人の国民病と上手に対峙して頂くことを願います。