《1825》 なぜ、「5年生存率」なのか? [未分類]

がん医療、ここが分からないシリーズ・18

なぜ、「5年生存率」なのですか?

Q. あらゆるがんで、よく、5年生存率ということが言われます。5年生存すると「がんが治った」ということになるのですか?

また、先生が診ておられるがん患者さんの中で、5年生存した患者さんには、何か共通点はありましたか?


A.
 なるほど。
   5年生存率という言葉は、私が医学生のころからありました。

   あくまでがん治療の経過を表す数字だと思います。
   1年生存率、10年生存率という言葉もあります。

   しかし、10年では自然の寿命が来るかもしれませんし、
   1年では、治療がうまくいっているのかどうか評価できません。

   多くのがんは、治療して5年後に再発が無ければ寛解したと表現されます。
   治癒というのではなく、おそらく治った(であろう)という感じでしょうか。

   5年生存率は、治る、治らないではなく、単純に
   がんと診断されて5年後にその人が生きているかどうかの確率。

   2003年~2005年にがんと診断された日本人の「がんの統計13年度版」
   のがん種別5年生存率を調べてみました。

   全てのがんの5年生存率は、58.6%です。

   もしみなさまの周囲にがんとわかった人がいるなら、
   その人が5年後に生きている確率は約6割ということです。

   がんであれば「5年生存率」はだいたい同じだろう、
   と思われるかもしれませんが間違いです。

   「5年生存率」が高いがんと低いがんがあり、なんと10倍以上の差があります。

   「5年生存率」が高いがん上位5つを挙げてみましょう。
   前立腺がん 93.8%、甲状腺がん 92.2%、乳がん89.1%、
   子宮体がん 79.8%、喉頭がん 75.9%です。

   反対に、「5年生存率」が低いがんとしては、食道がん、肝臓がん、胆のうがん、胆管がん、
   膵臓がん、肺がん、脳腫瘍、白血病などが挙げられ、7~34%という数字が並んでいます。

   80歳男性にPSA検査から前立腺がんが見つかることがよくありますが、
   そもそもがんで死ななくても、85歳まで生きているかどうか不確実です。

   5年後に生きている確率が94%もあるのであれば、既に男性の平均寿命を過ぎているので
   前立腺がんを治療するかしないかという選択は、実はどうでもいい問題なのかもしれません。

   80歳女性に偶然発見された甲状腺がんも同じような理屈になります。

   高齢者であるほど、こうした臓器にできたがんに「放置療法」をすることは、理にかなった考え方です。
   極論本が売れようが売れまいが、がんを放置することは昔も今も、決して珍しいことではありません。

   とりあえず、がんができる臓器によって「5年生存率」はこんなにも差があることを知ってください。
   意外でしょうか?

   5年生存している患者さんの共通点は極めて単純です。
   早期発見・早期治療を受けられた方です。

   ちなみに、これを読まれているみなさまの、100年生存率は何%でしょうか?
   あるいは、私自身の50年生存率は、何%くらいでしょうか?

   もちろん、0%(ほぼ)です。
   予後予測とは、あくまで確率の話です。