なぜ、「5年生存率」なのですか?
Q. あらゆるがんで、よく、5年生存率ということが言われます。5年生存すると「がんが治った」ということになるのですか?
また、先生が診ておられるがん患者さんの中で、5年生存した患者さんには、何か共通点はありましたか?
A. なるほど。
5年生存率という言葉は、私が医学生のころからありました。
あくまでがん治療の経過を表す数字だと思います。
1年生存率、10年生存率という言葉もあります。
しかし、10年では自然の寿命が来るかもしれませんし、
1年では、治療がうまくいっているのかどうか評価できません。
多くのがんは、治療して5年後に再発が無ければ寛解したと表現されます。
治癒というのではなく、おそらく治った(であろう)という感じでしょうか。
5年生存率は、治る、治らないではなく、単純に
がんと診断されて5年後にその人が生きているかどうかの確率。
2003年~2005年にがんと診断された日本人の「がんの統計13年度版」
のがん種別5年生存率を調べてみました。
全てのがんの5年生存率は、58.6%です。
もしみなさまの周囲にがんとわかった人がいるなら、
その人が5年後に生きている確率は約6割ということです。
がんであれば「5年生存率」はだいたい同じだろう、
と思われるかもしれませんが間違いです。
「5年生存率」が高いがんと低いがんがあり、なんと10倍以上の差があります。
「5年生存率」が高いがん上位5つを挙げてみましょう。
前立腺がん 93.8%、甲状腺がん 92.2%、乳がん89.1%、
子宮体がん 79.8%、喉頭がん 75.9%です。
反対に、「5年生存率」が低いがんとしては、食道がん、肝臓がん、胆のうがん、胆管がん、
膵臓がん、肺がん、脳腫瘍、白血病などが挙げられ、7~34%という数字が並んでいます。
80歳男性にPSA検査から前立腺がんが見つかることがよくありますが、
そもそもがんで死ななくても、85歳まで生きているかどうか不確実です。
5年後に生きている確率が94%もあるのであれば、既に男性の平均寿命を過ぎているので
前立腺がんを治療するかしないかという選択は、実はどうでもいい問題なのかもしれません。
80歳女性に偶然発見された甲状腺がんも同じような理屈になります。
高齢者であるほど、こうした臓器にできたがんに「放置療法」をすることは、理にかなった考え方です。
極論本が売れようが売れまいが、がんを放置することは昔も今も、決して珍しいことではありません。
とりあえず、がんができる臓器によって「5年生存率」はこんなにも差があることを知ってください。
意外でしょうか?
5年生存している患者さんの共通点は極めて単純です。
早期発見・早期治療を受けられた方です。
ちなみに、これを読まれているみなさまの、100年生存率は何%でしょうか?
あるいは、私自身の50年生存率は、何%くらいでしょうか?
もちろん、0%(ほぼ)です。
予後予測とは、あくまで確率の話です。