《1842》 胃カメラを飲むまでの葛藤 [未分類]

「胃が痛い」と言われたら、次は「いつから?」、「どんな風に?」と聞きます。
「食事をしたら痛みが楽になる」症状は、過酸なので十二指腸潰瘍を疑います。

みなさんはピロリ菌をよく気にされますが、タバコもとっても大切な原因になります。
あと、体重減少の有無も必ず質問します。

医者の頭の中には、常に「がんじゃないかな?」があります。
いずれにせよ、胃カメラは飲むべき時には覚悟して飲んで欲しい検査です。

ポイント

  • タバコは、胃潰瘍や胃がんをはじめ万病の元
  • 胃が痛いと言われたら、医者はまず胃がんを疑う
  • 胃内視鏡検査は、受診したその場で行われることもある
  • バリウムが苦手という人も胃内視鏡検査から受けて欲しい
  • その前に腹部エコーを行うと、胃以外の病変が確認できる 

胃カメラを飲むまでの葛藤

事前に書いてもらった問診票を確認しつつ質問をする。

――秋からというと、もう三、四ヵ月は痛みが続いているということですか。
ときどき痛いのですか? それとも、ずっと痛いですか?

「以前はときどきでした。しかし最近は一日中痛むのです。
痛くて夜中に目が覚めることもあります。食べると痛みが増します。吐き気も感じます」

 ――体重も減っているようですね。身長が174センチで……現在は69キロですか。

「そうですね、今年に入ってから3~4キロは痩せたでしょうか、
そんなに体重計に乗る人間ではないのでたしかじゃありませんが」

「あなた、かなり痩せたわ。メタボ体型を気にしていたあなたが……3~4キロどころじゃないわ、もっと痩せた。
前は75キロもあったじゃないの。朝からトースト2枚に目玉焼きを2個も食べる人だったのに、
最近はサラダだけでいいって言うじゃないの」

――鈴木さん、タバコは?

「最近、吸っても旨くないのでやめています。すぐにむせますし。痰(たん)が頻繁(ひんぱん)に出るようになりまして」

「えっ? あなた、禁煙したわけではなくて、むせて吸えなくなっていたの?」
 
胃がんを疑っているのに喫煙のことを訊(き)くのか? と思われるかもしれない。

喫煙が関係するがんは何も肺がんや咽頭(いんとう)がんだけではない。タバコの中に含まれる有害物質は二百種類以上。
ピロリ菌ばかりが昨今騒がれているが、胃がんの原因の30パーセントがタバコによるというデータもあるほどだ。

ヨリ子さんが隣で唇を噛む。
嫌な予感を必死で否定しようとしているふうに見えた。
いつものにこやかな表情はない。
それだけ夫の食事量が減れば、当然何かがおかしいと感じる。

嫌がる夫をどうやって私のところに連れてこようか、毎日作戦を練っていたに違いない。
しかしご夫妻のやりとりを見ている限り、妻の作戦が成功したというよりも信夫さんご自身が、
もはや医者に診てもらうしかないと観念したといったところか。

――今日、さっそく胃カメラをしましょうか。いや、その前に腹部エコーやね。

「えっ、今日胃カメラですか」。信夫さんが初めて私の目を見た。

――早いほうがいいですよ。大病院ならば予約を取ってから二週間くらいかかるけれど。
うちはすぐに胃カメラをやります。だけど何人かすでに胃カメラをお待ちいただいているから、そうですね、
一時間ほどかかるかもしれません。お時間は大丈夫ですか? 今日、やってしまいましょう。

「いえ、時間は大丈夫なのですが、ずっと吐き気が続いていますので、耐えられるのか不安になりまして」

――会社の定期的な健康診断は受けていなかったのですか? 
最後に胃のレントゲンを撮られたのはいつでしょうか?

「お恥ずかしながら……どうしてもレントゲン検査が苦手で、ここ四~五年は忙しいのを理由にサボっておりました。
苦手なんです、あのバリウムってやつがどうしてもね。
そういえばその頃から少しゲップが増えていたというか、慢性的な吐き気がなかったわけではないかな」

【「抗がん剤 10のやめどき」(ブックマン社)からの転載】

 アピタル編集部で一部手を加えています