ファーストラインの抗がん剤治療が、効く場合と効かない場合があります。
いったん効いても、徐々に効かなくなる時が必ず来るものです。
次に勧められるのが、セカンドラインという抗がん剤治療です。
これをやるか、やらないのか、大きな岐路であると思います。
一般的には、ファーストラインよりセカンドラインのほうが
治療効果が劣ることが多いと言われています。
ですから、セカンドラインを勧められたあたりが、抗がん剤の
止めどきを考えるタイミングのひとつであると思います。
【本日のポイント】
- ファーストラインが効かなくなったらセカンドラインを勧められる
- 一般に、セカンドラインのほうが治療効果が劣る場合が多い
- セカンドラインを勧められた時が止めどきを考えるタイミングのひとつ
「抗がん剤のやめどき4」――セカンドラインを勧められたとき
鈴木信夫さんは、会社がきちんと誠意を見せてくれたこともあって、休職手当付きでしばらくお休みができるようになり、症状が少し落ち着かれた。
次に私のクリニックに来られた午後は、また自転車に乗ってこられた。前回、自転車で来られなかったことも、社会的痛みの一つ。晩秋の微風を細い体に受けながら、なんとか鈴木さんは、自力で自転車を漕いで、お一人でクリニックを訪れた。
TS-1の4コース目が終了した後、逆流性食道炎の悪化もあり、少し抗がん剤治療をお休みされていたので、免疫機能もわずかに回復されていたようだった。
ときどき抗がん剤治療を休む。少し元気になる。
病院からは、なぜ休むのか? と言われるかもしれないが、「逆流性食道炎が苦しい」とでもなんとでも言えばいいのだ。抗がん剤治療半年目にして、信夫さんは少し不良になられた。副主治医の私にとっては、この程度グレてくれるほうが正直、ホッとする。
しかし―――。
「今日の午前、Aがんセンターに行ってきました。先生、腫瘍マーカーが上がってしまいました。再発が疑われると主治医から言われました。
体調の回復を待って、抗がん剤のセカンドラインを行うということです。TS-1だけの効果は、これ以上は期待できないということでした。今までのTS-1に加えて、シスプラチンという抗がん剤も使うそうなんです」
予測はしていた。ここでシスプラチン(プラチナ製剤)との併用療法という話が、Aがんセンターからは出てくるだろうと。
先述したように、進行胃がんの抗がん剤治療は、TS-1とシスプラチンの併用が当たり前。TS-1で現状維持。ならば、さらに強い抗がん剤と併用して、現状維持を長引かせたい―――Aがんセンターの主治医の気持ちはよくわかる。
――そうですか。まあ、そうなるやろな。しかし鈴木さん、シスプラチンの副作用については、主治医の先生から詳しく訊かれたのかな。
「はい、TS-1よりも、かなりしんどそうですね。しかし、しんどい分、きっと効果も表れるんじゃないかと」
――少しずつ不良になっていいと思います。この前TS-1休んだら、楽だったでしょう? シスプラチンも言われるままに受けることはない。つらかったら休む。もういいと思ったところでやめる、という選択肢もある。それだけは、覚えておいてほしいです。
「わかりました。しかし私は、やる前は怖くて仕方のなかったTS-1を4コースできた。シスプラチンという、もっと大きな波を拒否する手はないと思っていますよ。抗がん剤を受ける前に怖がっているのは、オバケを見たこともないのに怖がっているのと、同じなんちゃうかなってね、そういう気持ちで挑もうと思っています」
――わかりました。そこまで腹をくくっているならば、やりましょう。そしていつでも私に、愚痴を言うだけでもいい、来てくださればいい。
その日の夜、外来が終わってから改めて鈴木信夫さんのカルテを読み直し、院長室の窓からAがんセンターの方角を探した。あきらかに体力が弱っているところでシスプラチンとの併用療法――鈴木さんには、挑む意欲は見られたものの、つらい日々が待ち受けているだろう。
シスプラチンは経口薬ではなく、点滴薬である。十分な水分補給を行うためにも通常、鎖骨下静脈に点滴用の管を埋め込んで(IVHポートという)点滴で体内に入れる。初回は入院が必要である。
この抗がん剤は、腫瘍収縮効果の高さはピカイチだと言われている。胃がんだけではなく、肺がんや膀胱がん、前立腺がんや卵巣がんにもよく使用される抗がん剤の一つだ。
副作用としては、尿の量が減少して起こる腎機能障害、聴器障害、激しい吐き気、嘔吐、骨髄抑制など。すでにTS-1を4クール行ったことで体重が15パーセント減少している鈴木さんが、どこまで副作用に耐えて、夢に近づいてくれるのか。
このようにセカンドラインを勧められたとき、もしくは一度だけ試してみて、副作用があまりにも激しかったときは、抗がん剤のやめどきを考えてしかるべきタイミングでもある。
【「抗がん剤 10のやめどき」(ブックマン社)からの転載】※ アピタル編集部で一部手を加えています