俳優の今井雅之さんが大腸がんで逝かれました。
漫才の今いくよさんは胃がんで逝かれました。
詳しいことはわかりませんが、様々ながん治療を受けたことでしょう。
その中で、様々な葛藤があったでしょうが、ご冥福をお祈りします。
昨日は、胃がんでがん性腹膜炎と診断された方の自宅に、初めて訪問しました。
この連載と似ているなあ、と思っていたら、これを読まれている方でした。
私のがん小説はセカンドラインでウロウロしていますが、その方は5つ目でした。
一見、元気そうに見えたのですが「抗がん剤はこれでやめた」と言われました。
私は思わず、「いいところでやめましたね」と本音を言ってしまいました。
病院の主治医はやはり未練があるようで、かなり引きとめられたそうです。
しかし、これからはもう病院に行かなくてもいいし、どこにでも旅行できる。
痛みも無いし元気だからしばらく養生して毎日を楽しんでね、と言いました。
今日という一日を楽しんで生きることは、がん患者さんも元気な人も同じはず。
ここでまた、「一日一生」という言葉が口から出てしまいました。
千日回峰行を2回も達成された酒井雄哉さんのことを思い出していました。
ある出版社のご縁で酒井さんとお会いする前に旅立たれましたが、会いたかった方。
そう、このアピタルも、今日で1865回目ですが、一日も休まずに書いてきました。
あと135日後、つまり9月の半ばには、第2000回という節目を迎える予定です。
回峰行という荒行と、こんなちっぽけなコラムを比べたら怒られるでしょうが、
何事も継続は金と思いながら、元気に生かされている医者の務めかと思い続けています。
今日は、岡山で講演の後、神戸で勉強会、夜は京都でエンドオブライフ・ケア研究会の
会議等で、明日は大阪で日本内科学会の教育セミナーに参加など、ウロウロしています。
話が飛びますが、沢山のがん患者さんがこのつたないコラムを読んでくださっているようで
毎日、いろんな患者さんからいろんなお便りを頂き、この場を借りて感謝申し上げます。
全部に返事を書くことはできないので、せめてこのコラムに反映させていきたいと思います。
私の記事もいつかは“やめどき”が来ることを意識しながら、もう少し拙文を書いていきます。
それにしても、好きな俳優さんや芸人さんが亡くなり、ちょっとショック……
でも私のつたない本や文章が、一人でも多くの患者さんの参考になればいいなあと願っています。
今日の文章に、特にポイントはありません。
火山の噴火と訃報に、少し動揺しています。
抗がんサプリメントは“効果”ではなく“希望”をもたらす?
鈴木さんは、少し抗がん剤治療を休んだことで、うつ状態も体力の衰えも、軽減したようだった。途中で腹膜播種という形で再発が見つかったが、TS-1とシスプラチンは3コース目が終了。
「先生! 聞いてください。先日の検査結果が出たのです。再発した腹膜播種がね、3割ほど消えているんだそうです。いったん上がった腫瘍マーカーも下がりました。最高時には、3桁もあった数値が、今回は9ですよ! 先生、TS-1とシスプラチンの併用がようやく私に合ってきたようだ」
――それはよかったなあ。いい春を迎えられそうじゃないですか。
「ええ。同僚達と花見に行けるかもしれません。それにね、先日娘が、たくさんがんに効くサプリメントを買うてきたんです。先生、あれは勝手に飲んでいいんですか。一応、長尾先生に相談をするべきなのかな」
――鈴木さん、医者はね、サプリメント等をはじめとする代替療法に関しては、口出しはできないんです。あくまでもそれは、患者さんのご判断で行うことですから。
「いやでも……それは、長尾先生はあまり賛成ではないということでしょうか」
――賛成も反対もありません。ただね、本当に効果のある成分ならば、製薬会社がほっといちゃいないわけで。そうは思いませんか?
たとえばメシマコブやアガリクス、サメの軟骨といった、長年サプリとして売られているものに本当に効果が認められるという証拠があるのなら、莫大な予算を使ってでも、薬として売るはずだ。薬になるほどの効果がないから、栄養補助食品の枠内として食品メーカーが“がんサプリ”と銘打っているんです。そこを混同してはいけません。
「でも、絶大な効果があるとパッケージでは謳っているんですが」
――そりゃ、商売ですからそう謳うでしょう。抗がん剤も、効くか効かないかは、個人的な差が大きくありますが、サプリメントは、そのレベルのお話ではない。
だけどまあ、せっかく娘さんが買ってきてくれたんだから、一度試してみて、なんだか調子がいい、続けた方が良さそうと素直に体が感じるのであれば、続けられたらいかがでしょうか。宗教と同じレベルくらいに思っておいてください。
「そうですね。せっかく娘が冬のボーナスをはたいてくれたようだし」
――しかし、これはお嬢さんにもお伝えしておいたほうがいいが、家計が逼迫するようなサプリメントは購入しちゃダメです。お小遣いの範囲で試せるものを試せばいい。医薬品と違って規制の網が緩いから、なかにはとんでもない値段を吹っかけてくる代物もあるはずです。身体にも優しく、財布にも優しいと感じるサプリメントならばやって頂いても構わないかな。
「しかし、期待してしまいますよ。毎日死にたくなるようなシスプラチンの副作用に苦しんで、途中で再発し、もうダメかと思った腹膜播種が、3分の1ほど見えなくなったのです。ここで、サプリメントをいろいろ試したら、もしかすると一気に私のがんが、消えてなくなることもあるかもしれない」
――希望を持つことは大切です。何よりの薬かもしれない。だけどね、「ク・ス・リ」って、後ろから読むと「リ・ス・ク」になる。ぼちぼちサプリをして、ぼちぼち私のところにきて点滴をして、日々の希望を繋いでいくことです。希望を持たないと、これほどキツイ抗がん剤治療に立ち向かえない。だからといってサプリに過剰な依存はしないでほしい。
「一日一生」という考え方
鈴木信夫さんは、TS-1とシスプラチンの併用療法を、独断で少しお休みも入れながら5コースまで続けられた。この治療によって、腹膜播種に一定の効果があったようで、腫瘍マーカー値も上がったり下がったりはするものの、急激な上昇を示すことはなかった。
副作用は徐々にキツくなっていたが休薬時間を上手に利用し、その期間は、半日ではあるが、仕事に通うこともできたし、先日は2泊3日で、奥様はもちろんの事、お嬢さんとその婚約者、そして息子さん夫妻と一家総出で沖縄旅行までされてきたという。
「抗がん剤投薬期間と休薬期間は、地獄と天国を行ったり来たりしている気分です。天国を味わえる休薬期間は、たった一日だって無駄にはできない、最近はそういう気持ちで生きています」
――そうですか。そうやって、休薬期間の天国を味わって、そのまま抗がん剤のやめどきを見つける方も大勢いらっしゃいます。その地獄と天国の落差は、なった方にしかわからない感覚でしょうね。がんになられてからは、一日の重みが、その前とは違うんやろな。
「がん患者になる前は日々をもっと雑に生きていた。がんになって初めて、朝、目が覚めて、意識が覚醒していく中で、今日もまた生きていること、新たな一日を神様が与えてくれることがいかに感謝すべきことかを実感しています」
――まさに、「一日一生」の生き方やね。
一日一生――実は私にはささやかな夢がある。もし、医者を引退して時間が出来たのなら、比叡山を千日回峰行したいのだ。
この荒行を2回も成し遂げた酒井雄哉師という有名な天台宗の僧侶の方がいる。結婚した奥様が、新婚2カ月目で自死され、それをきっかけに比叡山に登り、仏教に目覚め39歳で出家したという変わった人物だ。この方の著作に、『一日一生』というタイトルの本がある。
千日回峰行では、一日歩き続けるため、その日履いた草履はその日に履き潰してしまう。翌日はまた、新しい草履を履いて歩きだすわけだ。毎日同じ道を歩くが、履いている草履は毎日違う。その日は、クタクタで生きる気力を失いすべての望みを失っても、翌日また新しい草履を履けば、新しい自分が始まる――それが酒井師の考える一日一生である。
抗がん剤治療をしている時に、このような考え方を持っておられる方はわずかでも良い方向に作用するのではないだろうか。一日を一生と考え、寝る前にリセットし、明日また生まれ変わって生きるのだ。
【「抗がん剤 10のやめどき」(ブックマン社)からの転載】※ アピタル編集部で一部手を加えています