韓国でMERS感染者が増えて、死亡者も出ています。
日本でも、そろそろ気をつけたほうがいいと思います。
さて、がん拠点病院に「もう治療ができない」と言われた!
と泣いて、駆け込んでくる患者さんや家族がおられます。
「それはいい病院ですね」なんて言ってみたら、相手はキョトンとしています。
抗がん剤治療が無いのであれば、もう介護タクシーで病院まで行かなくてもいい。
それでもまだ「病院には行きたい」という患者さんや家族がとても多いです。
一方、在宅ホスピスなんて言葉は聞きたくないし、信じていません、とも。
つい「胸水や腹水が溜まっている」と呟くと、「じゃあ抜いて下さい!」と
言われる患者さんや家族も多いですね。
「抜いて問題が解決するのであれば、いくらでも抜きますが、
全部抜いたら死んでしまいますよ」と言えば、またキョトンとされます。
状態が悪くなればなるほど、本人ではなく家族がパニックになります。
本人は、自然の脱水や脳内麻薬のおかげでウトウト寝ているのですが。
【本日のポイント】
- 末期がんでは「もう治療ができない」時期が必ず来る
- 胸水や腹水は安易に抜かない、抜いても解決はしない
- 病院か在宅か、最終的な選択をしていく時期でもある
「もう治療ができない」と言われたら、がん拠点病院にいる必要はない
鈴木信夫さんが、在宅医療とAがんセンターの二股になって、はや2カ月半が経とうとしていた。
ヨリ子さんから電話があったのは、残暑は厳しいが、少しだけ季節の移り変わりを感じ始めるようになった週末のことである。信夫さんは、サードラインであるタキソテール(ドセタキセル)3コース目の途中であった。
ヨリ子さんは、Aがんセンターの待合室から私に電話をかけてきた。信夫さんは、激しい腹痛が治まらず、たまたま実家にいた息子さんの判断で昨日、急きょ救急車を呼んでAがんセンターに運ばれたという。
――えっ? 救急車で? どうして先に、私に電話をくれなかったんです?
「いえ、息子がちょうどおりまして……とにもかくにも救急車を呼べというものですから。私も気が動転しておりまして……。だって先生、気が付いたら主人のお腹がパンパンになっていたのです。そして今、腹水を抜いてもらったところです。白血球の数が急激に落ちて、もうタキソテールはできないと言われました。そして、そして……」
そこでヨリ子さんの言葉が詰まった。
――しっかりして。
「最悪の場合、もって1カ月。そう言われたのです。そんなことあるんですか、先生! ほんとですか! もうできることはありませんて! もう食べられないから、IVHポート(シスプラチンを投与する時点で鎖骨下静脈に入れていたカテーテル)から高カロリー栄養を点滴しましょうと言われました。先生、もう主人は死ぬまで何も食べられへんの? 私どうしたら……」
――ヨリ子さん、私の言うことを聞いてくれますか。もうがん治療はできない、と言われたら、Aがんセンターにいる意味はありませんよ。
「意味はないって?」
――だって、がんセンターはがんを治すところじゃないか。治せへんと匙を投げられたのなら、そこにいたって仕方ない。
「長尾先生の言っている意味がわからないわ」
――IVHでの高カロリー栄養は、拒否しませんか。容態が安定したら、退院してください。もし病院が無理です、と言っても一旦、連れて帰ってください。
腹水は抜いても抜いてもまたすぐに溜まりますよ。信夫さんの余命と体力を悪戯に奪うだけだ。自然な経過に任せて脱水を待てば、必ず少しは引いてきます。退院したら、すぐに駆けつけます。ここでうまく退院できたらまだまだ、食べられるはず!
病院からの脱出――腹水・胸水を抜いてはいけない
私は無謀なことを言ったのか? そう思われる読者も多いに違いない。しかし、これが私のできる最善の方法なのだ。頼む、退院してくれ。そう願わずにはいられない。
まず、なぜ腹水を抜いてはいけないのかを、ここで説明しなければならない。「水」というくらいなのだから、ただの水分が溜まっていると思っている人も多いようだ。しかし、腹水・胸水はただの水ではない。栄養素の塊でもある。血球成分を除いた、血漿成分に近いものだ。
血液とは、この血漿と、赤血球・白血球・血小板などからなる血球成分に大きく分けられる。血漿には水分のほか、アルブミンや蛋白質や糖質、脂質、尿素、電解質、アミノ酸、その他に微量元素など、身体の機能を支えるのに不可欠な物質が多く含まれている。だから、腹水・胸水を抜くということは、血液を抜くことに近い。
しかも一度抜けば終わりではない。また溜まる。溜まったら、また抜きたくなる。その一方で、それを補うためにIVHや点滴で栄養と水分をたくさん入れる……がん拠点病院では、週3回も腹水・胸水を抜くことになるのだ。
もうできるがん治療は何もない、とAがんセンターは鈴木さん夫妻に伝えた。退院させるべきである。それなのに腹水を抜いたり、IVHをやることが、その後の使命だと勘違いしているのだ。そんなもの、使命でもなんでもない。以前、何かの勉強会でAがんセンターの看護師に会ったことがある。そのとき彼女は自慢げに私にこう話しかけてきた。
「がんセンターは終末期の患者さんは看取れないと長尾先生は思っているかもしれませんが、うちの病院では、看取り率がもう50パーセント近いのです。ターミナルケアにだって、ちゃんと力を入れているのです」
――あなたのところはがん拠点病院でしょう? いつから看取り病院になったの?
「看取り病院? 失礼な! うちはがんを治す病院です」
この看護師は、自分の言っている矛盾に気が付いていない。気が付いていないことがさらに悲しい。過剰な延命治療をしている暇があるのなら、がん治療にエネルギーを費やしてほしい。抗がん剤治療中の患者さんの精神的支えになってほしい。
【「抗がん剤 10のやめどき」(ブックマン社)からの転載】※ アピタル編集部で一部手を加えています