先日、ある抗がん剤に関する講演を聴きに行って驚きました。
最期まで抗がん剤を打つことが大切であると力説していたから。
専門医が、最期まで食べることができたのも抗がん剤を打ったからで、
打てる限りは最期の最期まで、抗がん剤を続ける努力が重要と力説。
その専門病院では、8割の患者さんがその病院で死ぬので
最期まで抗がん剤ができるのでいい、とお話しされました。
逆に言えば、たった2割の患者さんしか抗がん剤を止められない?
町医者とがん専門医では考え方が180度違うことを実感しました。
患者さんの意思やその支援、そして在宅医療のザの字も
ひとことも出てきませんでした。
私は製薬会社に気を使っているのかなあと思ってしまいました。
もしくはその先生が、製薬会社に完全に洗脳されている?
ですから、こうして毎日しつこく書いている内容は
決して当たり前ではなく、むしろ現状から見れば異論。
当たり前のことが当たり前でない、と感じる私は
オカシイのでしょうか? 間違っているのでしょうか?
抗がん剤のやめどき その5 ――
「腫瘍マーカーは下がらないが、できるとこまで抗がん剤をやろう」
と主治医が言ったとき医師は、悪い知らせ(バッドニュース)を患者に伝えることが苦手である。脅かすことは上手でも、落ちこませずにバッドニュースを伝えるには、相当なコミュニケーション・スキルを要する。しかし医学教育の中には、そんなものはほとんど無い。
IQは高くても、EQは低いという医師が多いと言われるが、ある程度真実であろう。受験戦争で偏差値の高かった人が、患者から見ていい臨床医になるとは限らない。むしろ逆の場合が多いかもしれない。
腫瘍マーカーという検査値は、ある意味残酷である。昔なら患者さんに教えないこともあっただろうが、現代では少なくともご家族には説明しておかないと、インフォームドコンセントに反する。抗がん剤治療で、腫瘍マーカー値が下がっている間は、説明は容易だ。「治療が上手くいっているから、このまま続けよう」。それだけでいい。
しかし、ファーストラインにせよ、セカンドラインにせよ、ある時点から腫瘍マーカーの値が、抗がん剤治療に反応しなくなる局面が必ず訪れる。そうした時に、そのバッドニュースをどう伝え、次の局面にどう活かすかが、がんに携わる臨床医の腕の見せ所であるとも言えよう。
しかし、現実にはそうしたスキルを持った医師はそう多くはない。その結果、がん患者は“難民化”すると表現される。医師の説明の後、患者さんはどうしたらいいのか絶望の淵に立たされるのである。難民化したと感じた患者さんの一部は、怪しげな民間療法にすがることになる。
民間療法の是非云々より、窮地に追い込まれた時に、上手に伝えて元気をもらえる主治医やかかりつけ医、在宅医を予め探しておくことを提案申し上げたい。もちろん患者さんと医師の関係には、相性がある。クチコミやネットなど、総合的に判断して探してほしい。私が重視しているのは、かかりつけ医や在宅医はできるだけ自宅から近いことだ。地理的なご縁が持つ意味は大きい。
さて、担当医が「できるところまでやろう」という時の心境を想像してみてほしい。「腫瘍マーカーが下がらない=抗がん剤があまり効いていない」しかし「できるところまでやろう=続行しよう」と言っているのだ。
明らかに矛盾している。医者が論理的に矛盾していることを言う場合、あるいは医者に限らず奥歯にものが挟まったような口調で話す場合、患者さんはその真意を測ることが必要だ。
やめどきは、医師だってわからない
2012年は、医学の歴史の中で明らかにターニングポイントだった。すなわち、日本老年医学会が終末期の人工的水分・栄養補給に関するガイドラインを出した年でもる。患者さんに利益がないと判断される場合、充分な話し合いを経て人工的水分・栄養補給を中止することも選択肢である、と明言した年であった。
拙書『平穏死 10の条件』が世に出た日とほぼ重なっているのは単なる偶然なのだろうか。大袈裟だと笑われるかもしれないが、私は、時代の必然であったと、今振り返るとそう思う。
終末期の人工的水分・栄養補給は、主に高齢者の話だ。一方、抗がん剤治療において、治療の止めどきは医学の教科書にちゃんと書かれている。患者さんの全身状態が悪化した時など、具体的に書かれている。しかし、薬が効かなくなった時のことは医学の教科書のどこにも書かれていない。ひとくちに効かないと言っても、どの程度をもって効かないというのか、判断が難しいためだ。
現実には、最期まで抗がん剤がダラダラと続く場合が少なくない。その場合はもちろん延命効果が無いばかりか、命を縮めている。「そんな馬鹿な」と思われる方が多いだろうが、傍観者の時と当事者になった時では、人間がとる行動は別ものなのだ。
というわけで、抗がん剤のやめどき、その5は「『腫瘍マーカーは下がらないが、できるところまでやろう』と主治医が言ったとき」だ。
言葉の真意を推し量るのも、患者の仕事かもしれない。主治医との話し合いは重要だが、最後に決めるのは自分である。自己決定という言葉を噛みしめよう。
【「抗がん剤 10のやめどき」(ブックマン社)からの転載】※ アピタル編集部で一部手を加えています