がんの再発とは、取り残しであることは前にも書きました。
それにしても「再発」とは、意味が深い言葉だと思います。
完全に取り除いた! と思ったがんでも、治療後に芽を
出してくることが現実にあります。
もちろん、芽を出さずに完治する場合もあります。
前者を本物のがん、後者をがんもどき、という医師もいます。
再発したがんに対する治療の多くは延命治療です。
余命半年を余命1年に延ばす、という目的の抗がん剤治療です。
しかし外科手術で、あるいは外科手術+抗がん剤治療で
完治した人がいるのも事実です。
しかし『再発した=かなり分が悪くなった』と考えたほうがいい。
高齢者や生き方によっては、その時点で治療をやめる選択もある。
しかし若いほど、家族も医者も簡単には諦めたくはありません。
だから、死ぬ直前までとことん抗がん剤をやる場合があります。
しかし亡くなった後、多くの家族はそれを後悔します。
逆に、途中でやめて後悔した人を、私はまだ見たことがありません。
医者の言いなりになる必要はありません。
ここはしっかり質問をして、自己主張をしてください。
抗がん剤のやめどき その6 ―― がんが再発したとき
鈴木さんは、胃がんの再発予防のために、抗がん剤を1年間近く継続した。しかし「腹膜再発」という形で再発した。どこかに潜んでいたがんが、息を吹き返したのだ。
鈴木さんの場合は、「低分化型」というタチの悪いがんだった。しかしタチの悪さを体感するのは、本当に再発してからだ。
Aがんセンターでは、再発の少し前より、鈴木さんにセカンドラインとして、それまでのTS-1単剤から、シスプラチンとの併用療法に移行していた。腫瘍マーカー等、数値が下がらなかったからである。
そのあたりから、再発の兆しがあったことは想像に難くない。もしTS-1単剤で効果があったなら、再発などしていなかったはずだ。シスプラチンなど、点滴の抗がん剤は、総じて経口剤より副作用が強い事が多い。
TS-1とシスプラチンの組み合わせは、胃がんが再発したときの抗がん剤治療としては標準治療だ。標準治療とはいえ、TS-1単独とシスプラチン併用は、天と地くらいに違うらしい。
らしい、と書くのは、あくまでその治療を受けている患者さんの言葉からの私の勝手な想像にすぎないからだ。全身倦怠感、食欲不振が数段強いという。その辛さは治療を受けた当人でないと分からないだろう。しかしその治療を受けたひとが異口同音に同じことを言う。「この辛さは経験したものしか分からない」と。
再発の意味を考えよう
ここで、「再発」という言葉の意味を少し考えてみよう。再発とは、何もないところから芽が出ることではない。火種があるからこそ、芽が出るのだ。
再発とは、再びがんが芽を出して、暴れ出すことを指す。なぜ人が変わるのか。それはそれまで散々、抗がん剤という毒に虐げられてきただけに性格が変わってしまうのだ。元々タチが悪かったのが、さらに極悪非道になっていく。
そうした極悪非道に立ち向かうべく、TS-1に加えてシスプラチンという新たな毒の応援を得る訳だが、そう簡単に効果は出ることは稀だ。それでもやるのが胃がんの標準治療だ。
がんの再発が疑われた時に、PET検査が行われることがある。ただPETで光るのはがんだけとは限らず、良性の炎症でも光るので悩ましいといえば悩ましい。
一時期、外科医は、術前にPET検査をすることを嫌がったと聞く。PETで、遠隔転移が明白になれば、手術自体の意味がなくなり中止になる可能性が高いからだ。外科医はまずは手術をして、もし再発すれば、「残念ですが再発です」ということができた。しかし、再発とは厳しい言い方をすれば、取り残しであり、術前検査では見つからなかった遠隔転移でもある。
ただ、「再発」と「見逃し」では、言葉から受ける印象が大きく異なる。前者は不可抗力であり、後者はなんだか過失のような語感さえ漂う。しかし現実には、両者はほぼ同じ意味と考えていいだろう。もちろん術前にPETなどで遠隔転移の有無が分かればいいのだが、現実には小さな転移は検出できない。すなわち、予測できなかった再発こそが本当の意味での再発であると思う。
がんが再発することは、がん幹細胞が残っていたことを意味する。そしてそれからの闘いには、相当な覚悟が必要だ。しかし、抗がん剤で延命を狙う可能性に賭けることが無駄ではない。「当たり」もあるからだ。分子標的治療薬の場合には、大当たりもある。
鈴木さんは、がんが再発してもシスプラチンを加えた抗がん剤治療を続けた。それは、まだ50代とお若く、体力も未来もありうる方だったから。しかし、年齢によっては、あるいは生き方によっては、再発した時点で、抗がん剤をやめるという選択もある。
というわけで、抗がん剤のやめどき・その6は「がんが再発しました」と言われたときである。
【「抗がん剤 10のやめどき」(ブックマン社)からの転載】※ アピタル編集部で一部手を加えています