私は在宅ホスピスに関わっています。
毎週、末期がんの人の在宅療養を依頼されます。
ですから、毎日のように痛み止めを処方しています。
もちろんモルヒネも処方します。
しかしモルヒネは「がんの痛み」、ましてや「末期がん」
専用の薬ではありません。
モルヒネは200年以上前から使われてきた痛み止めですが、
がんの痛みの基本薬として使われるようになったのはこの30年です。
明治35年(1902年)、正岡子規は脊椎カリエスの激しい痛みを
モルヒネでしのいだ生活の様子を、闘病記で詳細に記しています。
寝返りも打てないほどの痛みをモルヒネで和らげながら、俳句を詠み
絵を描き、多くの弟子を指導していたようです。
現在は、麻酔科やペインクリニック科の医師が、神経ブロックをするの
かもしれませんが、かなり専門的な手技が必要でどこでもできません。
しかし鎮痛薬であれば、比較的容易に使うことができます。
特に麻薬処方の免許を持つ医師は、痛みをとることができます。
がん以外に強い痛みを訴える病気として、帯状疱疹やロコモテイブ
シンドローム(骨や関節の病気の総称)などがあります。
骨粗しょう症や変形性腰椎症や圧迫骨折の痛みも、辛いものです。
激しい痛みのためにQOLが低下して寝た切りになる人もおられます。
2010年、厚労省は「慢性の痛み対策」を提言しました。
慢性の痛みにも医療用麻薬を使うことが謳われはじめたのです。
痛みは痛み。
原因ががんであろうが、なかろうが、なにより辛いものです。
まずはNSAIDSと呼ばれる非麻薬で様子を見るのですが
もし効かないのであれば、医療用麻薬を使うことになります。
しかし多くの患者さんは「麻薬」と聞いただけで驚き、断ります。
「私はまだ死にませんから麻薬だけは結構です」と。
医療用麻薬にはいまだ多くの誤解があります。
医師の中にも偏見を持つ人がいるのが現状だと思います。
おりしも、トヨタ自動車の女性役員の報道があったばかですので
そもそも麻薬とは何なのか、もう少し考えていきたいと思います。
(続く)
参考文献) あなたの痛みはとれる(日本尊厳死協会編)