モルヒネはがんの痛みに限らず、がん以外の痛みにも使われると述べました。
今日はモルヒネは呼吸困難の緩和にも使われることを知っておいてください。
たとえばタバコを長年吸った結果のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の呼吸苦
に対して、在宅酸素に加えて少量のモルヒネを投与することがあります。
あるいはALS(筋委縮性則側索硬化症)の呼吸苦にもモルヒネが使われます。
この場合はがんの痛みに使う初期量の4分の1程度から開始し少量で効きます。
神経内科医へのアンケート調査では、3分の2の医師がALSへのモルヒネの
使用経験が5例以下との回答で、ALSへの緩和ケアの遅れが指摘されています。
医師でさえ『モルヒネ=死ぬ前の薬、死期を早める薬』と誤解している人がいる
ので、世間一般の誤解が続いているのは仕方がないのかなと思う時もあります。
しかし今日は、モルヒネがALSやCOPDなどの呼吸苦に対しても使われていて、
命を縮めるどころか、逆に命を延ばす薬であることをお伝えしたいします。
モルヒネや医療用麻薬の根強い誤解の背景には、さまざまな歴史があります。
- アヘン戦争という戦争にまで至った歴史
- いろいろな戦争のたびに麻薬中毒者が発生した事実
- アメリカでは麻薬中毒者が増えているという現実
- 今回のトヨタの女性役員逮捕の報道
しかし誤解と偏見を解いて、医療用モルヒネを必要な人に必要な量だけ使えば
それは神様からの贈りものとして患者さんに喜ばれるのが現実です。
昨日述べたように、日本はアメリカと違い大変規制が厳しいのですが、
それは依存症患者を出さないために仕方がない規則だとも思いました。
私は、金曜日の夜に初診の患者さんの往診を依頼されました。
伺うと、がんの全身骨転移で七転八倒していました。
かかりつけの病院や診療所から出ていた薬は、ロキソニンだけでした。
私は翌朝一番にモルヒネを処方しました。
するとすぐに痛みが和らぎ、笑顔と冗談が出てきました。
最初の訪問時には「薬も持たずに来たのか」とお怒りでしたが、嘘のよう。
それくらい、モルヒネは使うべき時には迷わずに使うべき薬なのです。
痛みや呼吸苦を取るととても感謝されるので、医師になって良かったと思います。