《1904》 医療用麻薬を拒否する患者が急増 [未分類]

昼も夜もない、在宅医療生活にどっぷり漬かっています。
患者さんの痛みや苦悩は、休日夜間を問わないからです。

在宅医療の柱は、まさに緩和ケアです。
しかし、麻薬を拒否された患者さんが昨日だけでも3人おられました。

「先生、痛くて夜も眠れんがな。医者ならなんとかしてくれよ」
「じゃあ、ロキソニンに加えてオキノームを飲みましょうか?」
「なに? それってテレビでやってるオキシコドンとちゃうのか?」
「そうです。オキシコドンの即効剤の商品名がオキノームです」
「そんな薬飲んだら死ぬやんか。先生、なにするねん」
「2.5mgとごく少量なので絶対に死にませんよ。安心してください」
「テレビで麻薬中毒の話を何度もやってるのに、先生は知らんのか?」
「もちろん知っています。しかし中毒にも依存症にも絶対になりませんから」
「上手いこと言って。ワシは麻薬なんかで早く死にたくないわ!」
「……」
「先生、もうなんでもええから、この痛みを早く取ってえな!」
「だから、オキノームを……」

この数日、こんな会話が、繰り返されるようになりました。

オキシコドンは、即効性があるオキノームと
半日間効果が持続するオキシコンチンとして、在宅でも使われています。

オキシコドンは、日本においてはがんの痛みだけで、がん以外の
痛みへの使用は許可されていません。

では、腰部脊柱管狭窄症や骨粗しょう症のような『がんではない痛み』に
使える麻薬はなんでしょうか。

たとえば塩酸モルヒネ錠です。
10mg錠1錠を飲むだけで、苦しんでいた痛みが嘘のように消える人もいます。

しかしこの1週間、外来や在宅で、がん以外の病気の痛みで苦しんでいる人に
モルヒネ錠の頓服を提案しただけで、烈火のごとく怒ったひともおられました。

「長尾先生、ワシを殺す気か!?」
「そんなめっそうもない。決してそんな危険な薬ではありません」
「モルヒネ中毒にしてワシを殺すつもりやろ」
「なんてことを。そんなはずない」
「そやかて、テレビであれだけ危険や危険や言ってるやないか!
 先生は医者やなのに、そんなことも知らんのかいな?」
「すみません。でもこのモルヒネ錠だけは試しに飲んでください」
「飲まん。ワシはそんな危険な薬は絶対に飲まん!」
「ですから、危険ではありません」
「もうごちゃごちゃ言わずに、この痛みを取る薬を早く出してくれ!」
「……」

すでに、患者さんに処方された麻薬の増量は諦めるしかない場合もあります。
何時間かけて説明しても、テレビの威力の前ではもはや何の意味もありません。

せっかく、がんにはモルヒネやオキシコドンやフェンタニルといういい医療用麻薬が、
非がんには塩酸モルヒネ錠などが使える時代なのに、その恩恵にあずかれない人が増えます。

マスコミ報道の影響力の大きさを体感するとともに、今回の一連の報道が
遅れている我が国の緩和ケアの啓発に水を差すことがないように、祈るばかりです。