先日、膵臓がんの末期の患者さんの在宅療養を依頼されました。
うかがうと、想像以上に状態が悪くて驚きました。
2年前にステージIIの膵臓がんで膵臓全摘手術を受けられましたが、
1年後に再発し、現在は腹膜播種でステージIVとのこと。
ステージIIが、2年後にステージIVに。
気の毒ですが、よくあることです。
2年前に手術した時に、がんがどこかに隠れていたのでしょう。
それが1年後に姿を現し、抗がん剤治療にも抵抗して末期になった。
夫は悔しがりました。
助かった! と思っていたら、そうではなかったので落胆しています。
抗がん剤治療もさして効かなかったようで、少し前に中止したそうです。
落胆の底での帰宅となりました。
本人と夫に「振り返ってみて手術を後悔していますか?」と聞いてみました。
すると「いえ、後悔はまったくしていません」との答えでした。
今は止めている抗がん剤(TS1とジェムザール)についても聞いてみました。
しかし格段、後悔という感情は持っていないようで、少しホッとしました。
結果が悪いこともあれば、いいこともある。
ある程度の予想はつくのですが、実際に
やってみないと分からないのが、臨床です。
悪い結果をみて「そらみたことか!」という医者がいるが、どうしたものか。
反対に良い結果を見たら「それはがんもどき」と言うので、困ったものです。
ステージという言葉は、医者ががんの統計を取るために
勝手につけた区分にすぎず、絶対的な指標ではありません。
将来を予測するための、できるだけ簡便な指標に過ぎない。
だから一喜一憂しないでほしいと、家族に説明します。
ステージIVから生還する人がいれば
ステージI、IIから、旅立つ人もいる。
これはがん医療の現実です。
ステージとは人間が勝手に造った、便宜的な区分法に過ぎないと思って下さい。
膵臓がんは、厳しいがんですね。
彼女と同様なケースをこれまで何例か見てきました。
しかし私がクリニックで発見して、手術で完治した膵臓がん患者もおられます。
ポイントは、腹部エコーで直径1cm程度で発見できれば助かる可能性大。
膵管の拡張と膵のう胞の多発がハイリスクです。
そんな膵臓にこそ、膵臓がんができやすいのです。
膵臓がんこそ、早期発見を目指して、機会があれば必ず
腹部エコーでしっかり診ておいてください。
参考文献) 「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)