《1961》 がんを放置して、人生の最終章を商店街で迎える [未分類]

大腸がんの肝転移と肺転移で、末期状態の前段階の80歳代後半の女性は、
ステロイド入りの点滴をしただけで見違えるように元気になりました。

パクパク食べて、血色も良くなり、本当に末期がんなのか?と思うほどです。
しかし肝臓の半分は腫瘍が占めているし、CEAもどんどん上昇しました。

息子さんは、大腸カメラの検査はおろか、入院も治療も拒否されました。
しかし時々、元気が出る点滴はして欲しい、と言われました。

実は、この親子は商店街で、長年、ご商売をされているのです。
お母さんは入口に座って世間話をしているだけなのですが、商店街では有名人。

「お袋は、この商店街で50年も商売しているから、このままでええねん」と。

この女性が、人生の最終章をどこで過ごすのが幸せなのか?
病院なのか、自宅なのか、それとも商店街なのか?

私の答えは決まっていました。
商店街でなじみのお客さんと世間話をしているのが一番幸せなはずです。

 

結局、末期がんに近い人が、病院での医療を受けるか受けないかは

  • 年齢
  • 全身状態
  • その人の死生観や哲学
  • 家族の意向

などを勘案しながら、何度も主治医との話合うことで決まってきます。

時には、がんを放置したり
時には、がんを治療したり。

いずれにせよ、本人の意思を尊重して、悔いの無い選択をすることです。
こうした時、家族に考える時間を充分与えて携帯電話の番号を教えます。

1~2ケ月後には自然に在宅医療に移行し、その携帯番号はそのまま使われます。
こうして在宅医療になった人は100%、我が家で穏やかな最期を迎えています。

彼女は、自宅で旅立つ2週間前までお店の入り口に座り、笑顔で話していました。
私はその様子を横目で見ながら、「これでいいのだ」と呟いていました。

 

参考文献) 「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)