《1966》 胃カメラをしなければ良かった…… [未分類]

81歳の女性が「胃が重いので胃カメラをしてほしい」と来られました。
先日、朝日系テレビで胃カメラの解説をしたのを観られていたそうです。

胃カメラをすると、胃の出口近くに1cm大の平坦な隆起がありました。
組織検査をするとグループ5の高分化腺がんとの結果が帰ってきました。

本人が結果を聞きにきたので、それを告げると大騒ぎになりました。
長男や長女が相次いで来院して、いろいろと質問してこられます。

私が書いたがんの本を読んでくれと言っても、忙しくてそんな時間はないと。
しかし、根堀り葉堀り様々な可能性の説明を求めてこられて、結構時間がかかります。

本人はというと、「子供たちの指示に従う」と言われました。
この人に限らず、日本人は自己決定せず、家族任せという人が多いです。

まだ早期の早期の胃がんなので、内視鏡治療で簡単に完治するはずです。
入院期間も数日程度でしょう。

しかし後期高齢者の場合、入院が病気を作ることがあるので
治療行為そのものより、入院そのものの方が大きな問題です。

そもそもそれを放置しても、数年は大丈夫ではないか。
それまでに寿命のほうが先にきてしまう可能性があります。

「長尾先生、これって、がんもどきじゃないですか?」と、ご家族。

「そうですね。がんはがんだけど、なかなか死にそうもないがんですね」
「でも、切除していただいたほうが安心ですよね?」
「はあ、まあ……」
「じゃあ、病院を紹介してください」

私は、良いことをしたのか、悪いことをしたのか(見つけなくてもいいものを、
見つけてしまったのか)、サッパリ分からないまま、紹介状を書きました。

「こんなことなら、胃カメラなんてしなけりゃ良かった……」
「病変を見つけても、見逃したフリをしてあげたら良かった」と呟きながら。

以前このアピタルに「ゲートボールと早期胃がん」()()という記事でも書きましたが、
がんを見つけたばっかりに患者さんに辛い思いをさせたことがあるからです。

これまで何度となく、そんな経験を重ねてきました。
だから検査前に、その先のこと(このケースのようなこと)も説明するようにしています。

たいへん難しい問題ですから、私の中でも結論は出ていません。
たぶんみなさまも、それぞれ結論が違うのではないかと想像します。

参考文献) 「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)
お陰さまで、発売1カ月で四刷りになりました。