80歳以上の高齢者で、がん治療を中止された方が沢山おられます。
手術して、少し抗がん剤をしたところで、治療をやめた方です。
家族はたいてい強く治療継続を願いますが、本人が頑として治療を
拒否される場合、自然にがん治療は、終わりになります。
カルテには「ステージⅣの肺がん、本人希望で治療中止」、と書きますが
それから2年も経過しても、なぜか、まだまだ元気な方もおられます。
ステージⅣの前立腺がん、ステージⅣの胆管がん、ステージⅣの膵臓がん、
など、いろんな臓器のがんを放置して経過を診ることになることもあります。
決してがんの放置を勧めているわけではありませんが、あくまで本人の意思です。
がんを治療しなくなった人は、私のような町医者には結構、気軽に来られます。
風邪症状、糖尿病、腰痛など、高齢のがん患者さんは、沢山の余病があるのが特徴。
がんのことは頭から消えて結構、目の前のささいなことに神経が向いているようです。
早晩、在宅医療に移行して、旅立たれるのかなあ、と内心思って診ていますが、
1~2年経過してもお元気であれば、私自身もがんがあることを忘れそうになる。
「あそこで治療をやめて、良かったね」
そう言っても、みなさん軽い認知症なので、がん治療をしていたことも忘れている。
私自身は患者さんの意思を尊重する立場なので、これで良かった!と感謝します。
「80過ぎたら、なんでもあり!」
こう言うと、子供世代は怒る人もいますが、
本人は、ケロっとして、笑っておられます。
「がん放置療法」という仮説は、80歳以上の世代には、中止という自己決定を
後押ししてくれる、「福音」なのかもしれません。
月並みですが、人間の生命力は捨てたものじゃない。
臨床の現場にいると、高齢者のがんの進行が本当に遅いことを、実感します。
消えはしなくても、大きさがほとんど変わらないがんもたくさんあります。
がんを忘れるか、がんと共存できる可能性が高まるのが、80歳代の強みに感じます。
参考文献) 「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)