《1973》 抗がん剤にNO! という自己決定 [未分類]

抗がん剤治療を専門医から勧められて、NO! と言える
患者さんは、この世にそう多くはいません。

最初からNO、と言う人。
途中からNO、と言う人。

いずれにせよ、誰だって命は惜しいので、専門家の意見には
多少の疑問を感じても、ついていくしかないのが普通です。

それを、NO! と自己決定できる人は、凄いと思います。
抗がん剤でも手術でも放射線でも同じで、NO! は困難。

あまり考えないでのYESと
よく考えてのNOは、意味合いが全然違います。

私の外来には、NO! という自己決定した人が受診されますが、
これまでその決断を批難したことは、一度もありません。

私は、患者さんの直感は当たっていることが多いことを知っています。
まして、副作用のある治療の場合は、その決断を支持するしかできません。

「抗がん剤・10のやめどき」という本で小説の形で世に問うたとおり、
『やる・やらない』より『やめどき』の方に重点を置いています。

ですから『やめどき』を自己決定できることは素晴らしい!
と、手放しで誉めてしまうのです。

「全部、最初からダメ」とは言いません。
著効したケースをこれまでたくさん見てきたからです。

肺がんが全身の骨に転移して余命2カ月と宣告された女性が
抗がん剤が著効して、8年間元気に生きて活躍されたことを知っている。

これは稀なケースかもしれませんが、分子標的薬の中には
驚くほど効くケースもあるので、その可能性を奪うことはできません。

近藤誠医師は、おそらくそうした著効例を見たことが無いのでしょう。
酷い副作用だけ見て著効例を見たことが無ければ、全否定するのは当然。

ただし、努力の割には効果はイマイチ、というケースもたくさん
見てきているので、『やめどき』に人一倍、こだわるのです。

一般の人には、私のスタンスは分かりにくいかもしれません。
しかし30年以上、多くのがんを診てきた経験だけを書いています。

経験を馬鹿にする人がいますが、私はひとつひとつの経験を大切にします。
ですから、頭ごなしに「全否定」などとてもできないのです。

白血病の話ではありません。
ここでは、主に肺がん、乳がん、消化器がんなどの固形がんの話です。

町医者は、いろんながんを診ることができます。
外来はもちろん、在宅で死ぬまで診ています。

がん治療の始まりから終わりまでを見ることができます。
どこかの断片だけを見ている医者とは、全く違う立場です。

だから極論を前に、間違っていると思う所は間違っている! と言えるし、
一理あると思うところはそうだと、大賛成なら大賛成、と言えるのです。

がん医療は医学の教科書どおりにはいきません。
教科書には嘘が書かれている場合があることも知っています。

だから、私が見た事実を分かりやすく、お伝えしています。
どの患者さんも、私にとっては『真実』なのです。

だから、抗がん剤にNO! という自己決定を応援するのです。
自己決定は、満足医療・納得医療への近道であると思うから。

参考文献) 「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)