《1988》 極論本を支持するも、正反対を報じるメディア [がん]

一昨日、テレビを観ていたら
川島なお美さんと北斗晶さんのがんについて、一緒にして報道していました。

川島さんは、手術を受けましたが、残念な結果になりました。
北斗さんも、手術を受けましたが、その結果はおそらく大丈夫でしょう。

川島さんは、手術後の抗がん剤を拒否しました。
北斗さんは、手術後の抗がん剤を受けられます。

そして結局、番組は
「早期発見が大切だね」「がん検診の受診率を上げないとね」で終わりました。
PET検診やマンモグラフィー検診の威力を強調していました。

一方、書店に行くと「早期発見は意味が無い」とか「がん検診は無意味」
という内容の本が店頭に並んで、多くのメディアが書籍を支持しています。

早期発見が大切で抗がん剤で治療を是として報じるメディアが、
その一方で、早期発見は無駄で抗がん剤をすべて「百害あって一利なし」
とするような論旨の本を支持しています。

これって、自己矛盾じゃないの?
いったい市民はどうすればいいの?

そう思われた視聴者が多かったのではないかと思います。
報じているメディア自身も、自己矛盾に気がついていないのでしょう。

そうやって、市民の思想を左右させるメディアこそが、本物の“がん”なのじゃないのか?
とさえも思いたくなります。

結論から言えば
がん検診やがん治療は白か黒かの極論では語れない、語ってはいけない、ということです。
もっと具体的に、その場その場に応じたベストと思われる選択を模索するしかないのです。

川島さんは胆管がんで、北斗さんは乳がん。まず、がんができた臓器が違います。
さらにステージと経過が違うはず。(詳細は知りませんが、おそらく違うでしょう)

似ているのは、年齢と明るくて人気がある女性芸能人であること。
あと、配偶者に恵まれていることも似ていますが。

がんという病気は、100人いたら100様。
1000人いたら1000様で、まったくもって個性豊かな病気です。

標準治療でうまくいく人もいれば、統計からはみ出す人も必ずいます。
また、抗がん剤の“やめどき”は、その人の生きざまそのものです。

偶然重なったお二人のがん報道が、市民に大きな影響を与えています。
しかし、いったい何が正解なのか、ますます分からなくなったという人も多いでしょう。

メディアも世間も、極論が大好きです。

「長尾先生の中庸論は確かに正しいでしょうが、極論じゃないと
読んでくれないんですよ!」と、ハッキリ言われる編集者さんさえいるのです。

極論を信じれば、もう考えなくていいので楽だからでしょうか。

しかし真実は極論と極論の間、つまり「中庸」にあることに気がついてほしい!

私はそう願いながら、読者の皆さん、患者の皆さんに、ご自身にとって何が王道なのかを
考えながら人生を歩んでいただきたく、本を書いているつもりです。


参考文献) 「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)