《1990》 肝内胆管がんの診断 [がん]

肝臓内の胆管にできるがんを肝内胆管がんと呼びますが
その診断は意外と難しい場合があります。

肝臓内にできるがんを肝がんと呼びますが、
肝細胞がんと肝内胆管がんに分かれます。

両者の比率は、10:1と言われています。
肝内胆管がんは、肝細胞がんに比べて稀です。

肝細胞がんでは、AFPやPIVKAⅡが上昇します。
胆管がんでは、CEAやCA19-9が上昇します。

造影CTや造影MRIを行うと、両者の鑑別ができることが多い。
胆管がんの診断は、こうした画像診断と腫瘍マーカーで行います。

しかし両者の鑑別が難しい場合もあります。

もし腹部エコーで肝門部の胆管に直径2cmの腫瘍を認めた場合、
画像診断や腫瘍マーカーをしてもがんの診断がつかない場合があります。

早期のがんであれば、腫瘍マーカーの上昇がありません。
ますます、がんか良性か、分からなくなる場合があります。

しかしそもそも、早期の肝内胆管がんとはそのようなものです。

胃がんや大腸がんや肺がんや乳がんや前立腺がんであれば、がん細胞を
直接採取してきて顕微鏡で診ることで、がんか良性かを判定できます。

しかし肝内胆管がんでは、細胞の直接検査はできません。
しかし画像診断で疑いがあるも、腫瘍マーカーが陰性の時、どうするか?

思い切って切除手術をするという選択と
少し様子を観るという選択があります。

皆さま自身なら、どっちを選択されますか?

手術をして、肝臓を切除して、もし「がんではなかった」と言われたら、
怒りますか? 納得しますか?

もちろん事前の説明、インフォームドコンセントの具合にもよります。
医師の説明と対応によって、がんでなくても怒らないかもしれません。

一方、経過観察を選択した場合、その間にがんが進行するかもしれません。
特に胆管がんや膵臓がんなどタチの悪いがんの場合、その間に転移するかも。

そもそも直径2cmだから早期(ステージⅠ)とは限りません。
たとえ1cmでも全身に転移しているステージⅣの場合があり得ます。

発見時に手術していても、その6カ月後に手術しても、結果は同じだったかもしれません。
こればかりは『神のみぞ知る』で、誰も断定的なことは言えません。

結果が同じならば、手術しないほうが得、という考え方もあるでしょう。
その患者さんがもし80歳ならそうだし、100歳なら100%放置でしょう。

しかし50歳だった場合、どうするか?

諦めて放置するのか、
経過を見て、どこかの時点で観念して手術を受けるか。

もし手術を受けても、1年後に再発してしまえば、手術した意義を考えます。
しかし放置していたら、もっと経過が速かったかもしれません。

しかしこれも『神のみぞ知る』で、なんとも言えない仮定の話です。
肝内胆管がんや膵臓がんでは、そのような選択の連続の場合があります。

さらに、他のがんでも同じ様なことがあります。
はじめから白か黒か判明しないので、医者も患者も悩むのです。

医療とは、時に、そのような雲がかかった中を飛ぶことです。
もちろん、飛ばないという選択も十分あり得ます。

参考文献) 「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)