《1991》 親より子が先に逝くということ [在宅医療]

ものごとには順番があります。
亡くなるにしても、親が先、が普通です。

しかし在宅医医療の現場では、子供の方が先に逝くことがよくあります。
その多くは、がん。

乳がん、スキルス胃がん、脳腫瘍、白血病などは、若い人にも起こります。
懸命な治療をもってしても、いかんともしがたいことが現実社会ではある。

そんなこと言ったら、事故や犯罪で子供が先、もあるじゃないかという
お叱りを受けるもしれませんが……まあ、事故や病気は無情なものです。

医者をやっていて何が辛いって、それは親御さんに子供さんの
余命宣告や看とりの話をする時です。

私は冷たい人間ですが、それでも親御さんに話をする時は辛い。
特に、親御さんがいい人だったら、もっと辛い・・・・

30~50代の子供を、70~80代の親が看とる。
それはなんとも言えない世界です。

老衰とか、平穏死とか、そんな言葉を超えた大きな悲しみに包まれます。
スピリチュアルケアなんて机上の学問、なんていう気になる時もあります。

子供に先立たれた親御さんの悲しみは、言葉では表現できません。
ですから、亡くなった後も毎週訪問するように、自然になりました。

そうしているうちに、新たなご縁が始まります。
患者さんを超えた、介護者、家族との御縁です。

そんなことをしているうちに、20年が経過しました。
私の脳裏には、たくさんのご家族たちのお顔もあります。

名前は忘れそうになっても、顔や表情は忘れません。
医学やエビデンスを超えた世界に、生きているのです。

少しずつ町医者に近づけたかな、と思う時があります。
私は町医者になるために医者になりました。

医学部6年生の時に、何かの雑誌の対談でそう述べた記憶があります。
その雑誌は佐久総合病院の図書室にある、と誰かが教えてくれました。

元に戻りますが、がんという病気は切ない病気です。
私はがんになったらとても耐える自信がありません。