12月30日。
当院は、まだ普通に診療して多くのスタッフや医師が働いています。
しかし誰にも言わずに院長である私は仕事を休み、手術に向かいました。
行きの電車の中で、「今日で、このメガネとも本当にお別れだ」
と思うとなんだか、眼鏡が愛おしくなってきました。
眼科に到着すると、手術を受ける人で混雑していました。
流れ作業のように手術が進んで行きます。
両眼で10分程度でしょうか?
その日は、30人ほどの手術予定があるそうで、私は最後の方でした。
私の順番が近づいて来ました。
手術室の横で、麻酔の目薬が何度かさされました。
手術台に誘導されて、寝転んで初めて、若い執刀医の顔を見ました。
スポットライトのような照明が当てられ、
執刀医が私の角膜に、さっとメスを入れました。
基本的に目を開けていますから、なんとなく見えています。
事前説明のように、角膜の一部に切れ込みを入れて「フラップ」
にして、角膜の半分が、横に倒されるのが実感できました。
角膜にメスを入れる厚さ、この一瞬の作業がこの手術のポイントでしょう。
角膜を横にしたところで、望遠鏡のような機械がピッタリ当てられました。
術前検査を基に、事前にプログラムされたレーザー焼灼が、わずか
10秒間ぐらいでしょうか?あっと言う間に施行されました。
横でおそらくその機械の専門家(臨床工学師さん?)と、
執刀医が何やら焼灼条件について囁く声が聞こえてきます。
角膜を焼いた臭いにおいが、自分の鼻で感知できました。
角膜を、薄切りにされ、匂いがするほどに、焼かれて・・・
もう元には戻れない世界に来たんだと、改めて思いました。
太陽のように明るかった光源が、最後にゆっくり小さくなりました。
望遠鏡の中の光が消えた瞬間、完全な暗闇になりました。
なんだか、命が終わった瞬間のように感じました。
その間、僅か3分間ぐらいでしょうか。
全く同じ作業が、もう片方の眼にも施されました。
もう、正真正銘、完全に一線を超えました。
あっと言う間に、全工程、約10分間の手術が終わりました。
ベルトコンベアのように、流れ作業で手術が流れていきます。
1時間に4、5人手術するとして、1日30人位が限界でしょうか。
1人30万なら、1日で1000万円?
と思わす下世話な計算をしてしまいました。
私は、その30人の中の一人。
私は、医師でも特別な患者でもなく、そこでは、ただのオッサン。
執刀医と交わした言葉は、「お願いします」の一言だけ。
自分と入れ換わりに手術室に入れられる次の患者さんが見えません。
しばらく安静にしていましたが、目を開けてもほとんど見えません。
「エライことになったんかいな?」と、不安になりました。(続く)