《0220》 「誤診」と怒ったがん患者さんは生きている [未分類]

10年位前、内視鏡で小さな胃がんを発見しました。
しかし、早期がんと進行がんの間、と判断しました。
内視鏡治療では当時、まだ無理とされた進行度でした。

何人かの同業者の専門家に相談しました。
全員、「外科手術しか方法は無い」でした。
内視鏡治療は、100%無理だと強く思いました。

しかし、その患者さんは、強く内視鏡治療を希望されました。
私は「気持は分かるが、絶対に無理だ。外科手術しかない」
と、何度も丁寧に説明しました。

丁度その時、新聞に、ESDと呼ばれる
胃がんに対する新しい内視鏡治療法が紹介されていました。
ITナイフで、胃がんを胃粘膜から剥がし取る手法です。

当時、その内視鏡手術は、関東のある病院でしか
行われておらず、関西地区で可能な病院は皆無でした。
また、ある程度までの早期がんに限られた治療法でした。

「たとえその病院に行っても、あなたのがんには無理です」
と何度も説明し、一応、納得されたかのように見えました。
そして関西地区の大きな病院の外科部長に紹介状を書きました。

2カ月後。関東地区のその病院から、分厚い手紙が届きました。
「大変貴重な症例を御紹介頂き、ありがとうございました」と。
その患者さんは、紹介状を持って関東まで行かれたようです。

最初は、関東の病院の主治医も、私と同じように
「あなたのがんには、内視鏡では絶対に無理」と説明しました。
しかし、その患者さんは、こう言ったそうです。

「ダメでも絶対に文句を言わない。
 外科手術になっても文句を言わないから、
 ダメモトでその新しい内視鏡手術でしてください」

主治医は根負けして、患者さんの言う通り、
ダメだと思いながらも
ESDという新しい内視鏡治療を試みました。
ところが、やってみると術前診断とはやや異なり、
何とか、がん全体を取り切れたようでした。

切除標本の病理組織検査でも、完全切除が判明しました。
予想よりがんの広がりが、おとなしかったのです。
これは、あくまで結果論ですが。

関東の病院でも、当時「従来の内視鏡治療の限界を超えた症例」
と評価し、詳しい資料とともに丁重なお礼の手紙をくれたのです。
大病院の専門家たちも、当時、驚いたのです。

その患者さんは、半年後に私の所に来られました。
「先生は、誤診した!」と怒られました。
「誤診ではない」と言っても聞き入れません。

外で会っても、まだ怒っています。許してくれません。
せっかくがんを見つけても、あとが悪かったのです。
しかし10年経た現在も、元気で通院してくれています。

それ以来、患者さんの言うことに、
頭から反論しないように心がけています。
無駄足とは思っても、なるべく希望の病院に紹介します。

医療は、このような「ダメモトのチャレンジ」で
発展してきたのでしょう。
その意味で、この患者さんには感謝しています。