《0222》 1ミリにも満たない脳の病気 [未分類]

骨粗しょう症と言えば、普通は整形外科にかかります。
その方も、整形外科のエライ先生にかかられていました。
糖尿病があるため、私に紹介されて来ました。

腰椎が全部圧迫骨折を起こしていました。
胸椎も全部折れていました。
合わせて17個の椎体骨全部が、圧迫骨折!?

本人に聞くと、身長が10センチ以上も縮んだそうです。
おまけに、糖尿病が合併!?
それだけで、ピンと来ました。

「クッシング病」ないし、「クッシング症候群」に違いない!
コルチゾールというステロイドホルモンが多くなる病気です。
前者は脳下垂体、後者なら副腎の病気です。

注意深く、1カ月間、多くの特殊なホルモン検査を行いました。
珍しい病気なので、日本で一番偉いホルモンの専門家の先生に
負荷試験のお薬を提供して頂いたり、結構、手がかかりました。

結局、脳下垂体に病気の本体があることがほぼ判明しました。
しかし、通常、クッシング病の下垂体腫瘍は、
マイクロアデノーマという、顕微鏡で見ないと分からない腫瘍です。

もちろん、脳のMRI検査でも脳下垂体には「全く異常なし」です。
決め手となるのは、下垂体から出る、左右の静脈の中の
ACTHというホルモンの量です。

診断が、ほぼ確実になった時点で、専門病院に紹介し、
特殊な薬剤を負荷して、その左右差を調べてもらいました。
まだ、半信半疑でした。

そして「50倍もの左右差があった」との連絡を受けた時は、
推測が確信に変わりました。病院の医師も喜んで(?)いました。
なんだか、捜査の末、犯人を突き止めた刑事さんの気分でした。

鼻の奥から脳下垂体をすこしずつ削る顕微鏡手術が行われました。
1ミリにも満たない小さなスライスチーズのような切片を
手術室内でプレパラートの上で染色して顕微鏡で確認されました。

この作業を繰り返しながら、顕微鏡手術は
必要な所まで進み、無事終わりました。
切除した腫瘍は、わずか1ミリの何分の1。

1ミリよりずっと小さな腫瘍が、ACTHというホルモンを
過剰に分泌して、実に様々な症状を引き起こしていたのです。
その小さな小さな犯人をめでたく逮捕、除去できたのです。

これはずいぶんと前の話ですが、その患者さんは
現在もお元気で、深いご縁が続いています。
まさに医者冥利に尽きます。