《0228》 「心配ない」の難しさ [未分類]

病気でない病気といえば、よいのでしょうか。

健康診断を受けて、他の肝機能には異常がないのに
「ビリルビン」という値だけが、少し高い人がいます。
ビリルビンの正常値は、施設によって少し差があります。

正常値は、1.3ないし、1.5くらいでしょうか?
これくらいで腺を引くと引っかかる人が増えます。
ビリルビンには間接と直接がありますが、まあ置いておきましょう。

「専門医を受診しなさい」とコンピューター判定が
書いてあるので、素直な方(?)は、心配して受診されます。
検査結果を見ただけで、「体質性黄疸」だと分かるので、
「心配要りませんよ」と説明するのですが、怪訝な顔をされます。

ビリルビンを処理する肝臓の酵素(グルクロニルトランスフェラーゼ)が、
生まれつき少し足りない人がいます。実は私がそれです。
ビリルビン値が、多い時は、2ぐらいあります。

Gilbert病という名前はついていますが、病気ではありません。
体質的に軽い黄疸があるだけで、何の治療も要りません。
Gilbert病と言うと大袈裟ですが、日本人に多いのです。

昔、急性肝炎で入院して来て肝機能は正常に戻ったのに、
ビリルビン値が6もある子供さんの受け持ちになりました。
Gilbert病にしてはビリルビン値が高いので、
Crigler-Najjar症候群Ⅱ型という珍しい病気を疑いました。

それを証明するには、腹腔鏡で肝臓の組織を少し切り取って
グルクロニルトランスフェラーゼという酵素活性の測定が必要です。
ご両親に相談したら、今後のこともあるので検査を希望されました。

果たして予想どうり、この酵素活性は、正常よりうんと低い値で、
Crigler-Najjar症候群Ⅱ型であることが確定しました。
難しい病名がついていますが、これも体質的なもので
治療の必要はありません。

この子供さんは、急性A型肝炎を合併していたこともあり、
大変珍しい症例だったので学会発表もさせて頂きました。

あの痛い検査をした子供さんは、
現在は、40歳に近いはず。
元気でおられるのでしょうか。

Gilbert病の患者さんが来られて、「心配ないですよ」と
説明する度に、あのときの子供さんを思い出します。

ビリルビン値の解釈には、いろんな知識が必要です。
また、患者さんへの説明が意外と難しいもの。
「心配ない」だけで納得して頂ければいいのですが。