《0231》 「前医」がいたから「名医」がいる [未分類]

どう見ても「健康」としか見えない若い女性が入ってきました。
もうこれだけで「深刻」だと直感しなくてはなりません。
彼女は、「最近、とにかく疲れやすいのです」と訴えました。

いくつかの病院に行って血液検査などの検査をしても
異常なしとのことで、当院を訪ねて来られました。
こんな時が、一番、町医者魂が燃えます。(笑)

仕事の内容、勤務時間、睡眠時間、プライベートな悩み、
私生活でのトラブルなど、根掘り葉掘り、聞きました。
どれも何の問題もありませんでした。

「どんな時に疲れやすいの?」
「早く歩いたあとに疲れます」
これだけで心臓の問題だと、絞られます。

心電図を取ると、僅かに異常を認めたので、
心臓のエコー検査を行いました。
その時点では、「心筋症」を疑っていました。

心臓エコー検査は、腹部エコーほど
一般的な検査ではありません。
自己負担が2400円(3割負担)もする高価な検査なので、
本人の許可を得て行うようにしています。

すると、心臓の中にびっくりするほど巨大な腫瘍が
見つかりました。心室の中にできた腫瘍は、
弁を超えて心房にまで顔を出していました。
床下の「雑木」が1階を突き抜け、
2階を押し上げている状態です。

すぐに専門病院に紹介し、即、手術して頂きました。
幸い良性の腫瘍でしたが、もし発見が遅れたなら
突然死する可能性が高かった、との説明でした。

日々、何百人見ている患者さんの中に、時々、
このような珍しい病気が混じっています。
砂浜で綺麗な貝を探したり、野原で
四葉のクローバーを探したりする作業です。

町医者には、「その時」だけが勝負です。
ゴルフと同じで、「たら」「れば」はありません。
「結果」と、あと[納得]がすべてです。

後からは、何とでも言えます。
後出しじゃんけんなら、誰でも「名医」になれます。

「後医は名医」という諺があるように、
前のお医者さんに、いろいろ調べて頂いたお陰で、
この時は、私が名医になれました。

患者さんには申し訳ありませんが、
珍しい病気に当たる度に、前医に「感謝」します。