《0232》 「何もしないで待つこと」の難しさ [未分類]

大阪大学総長の鷲田清一先生が、今年7月に
鳥取で開催された日本ホスピス在宅ケア研究会で
講演されました。
演題は、たしか「待つことの大切さ」だったと思います。

現代は、医者も患者も本当に待てない時代です。
わずか30分が待てない患者さん。
しばらく様子を見れないお医者さん。

医者が、「しばらく様子を見ましょう」というのは、
「おそらく大したことはなさそうだが・・」という
ニュアンスが含まれています。

しかし、これが患者さんに上手く伝わらないことが多い。
患者さんは不安になり、ドクターショッピングに走る。
説明不足が理解不足を呼ぶ、悪循環です。

在宅医療を16年していて感じることは、
「何もしないことの難しさ」や
「何もしないで待つことの大切さ」です。

食べられなくなると、点滴をしたり
胃ろうにしたりしたくなる。
腎不全になれば、人工透析をしたくなる。
貧血になると、輸血をしたくなる・・・

しかし、がん性腹膜炎や認知症終末期で
食べられないはずの人が、放っておくと、
また食べられるようになる!

血清クレアチニン値が20を超えた慢性腎不全の方が
本人希望で透析をしなくても、結構長期間生存している!

ヘモグロビン値4の人を、輸血しないで放置していると、
横ばいで、それなりに生活できている!

腹水パンパンのひとを、利尿剤だけで様子をみていると
わざわざ針で抜かなくても充分過ごせる!
病院の先生には、なかなか信じてもらえないのですが・・・

最近は、血圧250の人を見ても、血糖が700の人を見ても、
昔ほど驚かなくなりました。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、下げていきます。

人間には、「順応」という、「自然の武器」が
備わっています。異常状態に「順応」していたものを
正常に戻す作業は急いではダメ。
また、人間には「自然治癒力」という力も確かにあります。

誤解を恐れずに言えば、「待てる時には待つ」ことが
できる医者こそが、名医ではないかと考えます。

終末期の在宅現場では、「待つことの大切さ」を
日々、実感します。
鷲田先生が言われたとおりであると思います。

「名医シリーズ」で書いてきたつもりが、
気が付けば、「迷医シリーズ」になってしまったかもしれません。
リクエストがあれば、次は「迷医シリーズ」にしましょうか?

いったんここで、このシリーズは終えて
明日からは、また日々の話題を書いていきます。

現在、感染性胃腸炎風邪が流行しています。
忘年会等で忙しい季節となりましたが、どうかご自愛ください。