《0245》 大腸ファイバーで腸に穴を開けた [未分類]

寒くなり、風邪の患者さんと、格闘しています。
内視鏡検査で、がんの早期発見を行う一方、在宅では、
末期がんの患者さんたちと向き合う毎日です。

夜、眠ろうとして眠りにつけないことがあります。
そんな時、失敗をした患者さんの顔が出て来ます。
今日から少し、「医療ミス」について
告白を続けたいと思います。

「誤診」ではありません。
もっと罪の重い「医療ミス」。
笑い話で済まないのが「医療ミス」。

私も26年間に、いくつかの「医療ミス」を
犯してきました。誤診や医療ミスを
経験したことのない医者はいないでしょう。
医療ミスは、裁判にならない限り表に出ませんが
少し書いてみます。

勤務医時代、私は、超忙しい消化器内科医でした。
普通の医者の何倍もの仕事を抱えていました。
みなさんがビックリするような仕事量でした。

ある日、大腸内視鏡検査をしていると、
部下の患者のことで病棟に呼ばれました。
部下はその週、休みを取っていました。
私は、それを知りませんでした。

その日の内視鏡検査は、いつもより多く
予約が入っていました。私は、前処置を終えて
検査を待つ数名の患者と部下の入院患者の
急変を同時に対応するという状況に、
追い込まれていました。

午後からは、外来の予約がビッシリ詰まっています。
超焦りながら、大腸内視鏡検査をこなしていきました。
結構、順調に1人目、2人目が終わりました。

そして、3人目。この主治医は、
今日休んでいる部下でした。これも、
極めて順調に大腸の中央部まで進みました。
しかし次の瞬間、見たことのない光景が
モニターに映っていました。

肝臓が見えました。
初めてみる景色。
夢であってくれ、と一瞬願いました。

やってしまった・・・
もう、その日のすべてが終わりました。
直ちにレントゲンを撮り、
「事実」をあらためて確認しました。

御家族に来ていただき、正直に経緯を説明しました。
患者さんは少しお腹を痛がりながらも、
手術を承諾してくれました。
そこで、患者さんの顔を初めて見ました。
(主治医は部下なので)

穿孔した「穴」を処理する手術は簡単に終わりました。
一部始終立会い、最後に外科医にも詫び
深くお礼を言いました。その手術時に、
肝臓が重症の肝硬変であることが分かりました。

肝臓の表面が異常にゴツゴツして、小さくなっていました。
主治医も患者も知らなかった「重症肝硬変」という副産物。
後に極めて珍しい肝臓病と判明し、学会発表されたそうです。

退院後も、本人は、今度は私の外来に来るようになりました。
納得いかないご家族には、何度も経緯を説明し謝罪しました。
患者さんは開業後もついて来ると言ってくれましたが止めました。

この医療ミスは、私には幸いなことに、訴訟になりませんでした。
災い転じてというべきか、開業前、患者さんとお別れする時に、
「感謝」の言葉さえ頂きました。大変複雑な気分でした。

2000人位、大腸内視鏡検査してきて失敗はこの1件のみ。
いや、消化器の検査での医療ミスはこれだけでしょう。
本人が気づいてないミスが、あるかもしれませんが。