《0265》 部屋に閉じ込められた隣人  [未分類]

家族と一緒に寝ている6畳間には

2段重ねの大きめの箪笥がありました。

上の箪笥が、外れて落ちそうに感じました。

 

もし落ちたら一家そろって即死だろう。

揺れで身動きできない中ですが、

はっきり「死」を意識しました。

 

結局、箪笥の上半分は落ちませんでした。

半分、外れたところで止まっていました。

これは、前夜の参拝のお陰と信じています。

 

揺れの合間に這ってリビングルームに出て、

自分の眼鏡を探しました。

真っ暗な食卓の下をまさぐり必死で探しました。

 

眼鏡を探している間に、断続的に次の揺れが来ました。

このまま眼鏡を探すか、諦めて逃げるか。

後にレーシック手術をしたのは、その時の経験からです。

 

家族を連れて、這うように階段を降りて

裏の公園に逃げました。

家に居たら死ぬと本気で思いました。

 

放心状態でした。

 

少しずつ空が明るくなってきました。

やっと、寝巻で出たことに気が付きました。

また、何故か傘を持っていました。

 

マンションの壁が割れ、細かな埃が舞っているのを

雨が降っている、と錯覚したからでした。

30分ほどしてから、恐る恐る部屋に戻りました。

 

偶然にも私は当時、そのマンション住民組合の理事長でした。

それを思い出し、マンションじゅうを大声を出して回りました。

普段口をきいたこともない人たちと初めて言葉を交わしました。

 

ある部屋から「助けて!」と泣きわめく声が聞こえてきました。

駆けつけると、玄関が壊れて、ドアが開かなくなっていました。

反射的に避難した位ですから、さぞかし恐怖だったことでしょう。

 

ドアを思い切り引っ張って、「突入」しました。

部屋の中は、食器ガラスなどが散乱していました。

1人暮らしの住人は、パニックになり、泣き震えていました。

 

毛布をかけて励ましました。

取りあえず1人、「助けました」

ここで、初めて自分が医者であることを思い出しました。

 

部屋の窓から、火事がいくつか見えました。

数えると10ケ以上の炎。

悪夢・・・見たことのない景色でした。(続く)