復興には10年、いや20年はかかるだろうと思いました。
壊れた建物の多くは、表面的には意外に早く修復しました。
しかし、被災者の心の傷は現在も癒えません。
1人の女子大学生がいました。
卒論を完成させた朝に、何故か帰らぬ人になりました。
彼女は、一流のフラメンコのダンサーでもありました。
当時、私は彼女のお母上の主治医でした。
外来受診時には、いつも付き添って来られていました。
しかし、娘さんと直接話す機会はありませんでした。
お母上から頂いた娘さんのビデオを、その後何度も見ました。
ほとばしる汗と情熱的な踊り。
ビデオの中には、素晴らしいフラメンコを踊る女性がいました。
しかし彼女は、もういない。
何なんだろう、
彼女が亡くなり、私は生きている・・・
お母上の心の中は、16年前と何も変わりません。
時々お便りを頂きますが、返す言葉が見つかりません。
娘さんの分も、頑張って生きよう。それしか言えません。
もう一人。
偶然、早期胃がんを見つけてしまい、内視鏡手術をした老人です。
彼女は、その手術を嫌がっていました。
「ゲートボールが出来なくなるから手術はイヤ」と。
しかし内視鏡手術のあと、説得して追加手術まで行いました。
嫌がる彼女の胃を外科手術で無理やり(?)取った私。
震災4日目だったでしょうか。
あるクラッシュ症候群の患者さんを搬送しようとして、
その方が、彼女の子供さんであることに気が付きました。
「お母上は?」
「母は、下敷きになって亡くなりました。
その節はありがとうございました」
・・・頭が真っ白になりました。
ゲートボールを優先すれば良かった・・・
なんて申し訳ないことをしたんだろう。
彼女の笑顔がいまも頭を離れません。
震災で、全部吹き飛んでしまいました。
良かれと思ってやって来たことが、
すべて否定されたように感じました。
医療は自然災害の前には無力です。
私自身、まだ「震災うつ」から抜け出れていないのかも
しれませんが。(続く)