《0310》 余命1カ月なのに「5年生きる」 [未分類]

末期がんの方の、平均在宅期間は約1・5カ月です。
不思議とどこで統計をとっても、だいたいそうなります。
不謹慎かもしれませんが、介護者には「何とか介護できる期間」です。

余命1週間に迫った本人にさりげなく訊いてみます。
「あとどれくらい生きれそうですか?」とか、
「寿命は、あとどれくらいと感じられますか?」

すると、まあビックリするような答えが返ってきます。
「まあちょっと体調は悪いけど、5年は大丈夫だろう」とか
「10年ぐらいかな?」とのお答えに、ご家族とズッコケます。

人間は「これまで無事生きてきたのだから、これからも続くのだろう」と
心の底で思っている生き物です。

「死」はどこまでも他人事で、例外。
「明日、死ぬかもしれない」と思って生きる方が、病的かも。

初めて高血圧を指摘すると、全員、怒ってこう言います。
「私は低血圧。これまで生きてきてそんなことは一度もなかった」。
自分の歳をすっかり忘れています。

「余命1カ月なのに余命5年」というギャップから、様々な行き違いが生じます。
抗がん剤を最期まで続けるのも、そんな背景が関係するのでしょうか。

まだまだ生きられると思うので、救急車で病院に運んでもらい、
直後に今度は寝台車で自宅に帰ってきます。
大半の人は「病院で死んだら本望」なのです。

家族は、知っていても「認めたくない」という意識が働きます。
最期についての説明を、見事に「拒否」されることもしばしば経験します。
「死」が近いことを認めるより、拒否する方が自然かもしれません。

本人に、余命を告げることは絶対にありません。
面と向かって訊かれても、私は言いません。

言わない理由は二つ。
言うと、「死のダメ押し」になるから。
第二に、予想が外れることもよくあるから。

批判があるかもしれませんが、これが私のやり方。
ここに書いてしまえば、それまでですが。

それでも私は、患者さんには「まだ大丈夫」と言い続けます。
皆さんは、こんな医者を「詐欺師」と笑うでしょうか?