逃げるか、逃げないか。
自分は助かるのか、一緒に死ぬのか。
究極の選択を迫られた方が多くおられました。
ある町に、ものを取りに戻った奥さんをそのままにして、
子供と親の手を引きギリギリ逃げれた男性がいました。
津波が引いた後、男性は奥さんの捜索を続けました。
残念ですが、奥さんは、ご遺体で発見されました。
その男性は、今、遺体確認のボランティアをしています。
どんなお気持ちで、今日を過ごされているのでしょうか。
著しく損傷しているご遺体もあります。
下着の色でかろうじて本人確認ができることもあります。
当然、全く確認が取れないご遺体もあります。
ご遺体の確認作業は、想像以上に大変な作業です。
お棺に貼ってある顔写真は、相当変化している場合があります。
一方、DNA鑑定は、実際には無理な場合もあります。
検視に携わった医師は名前が出ませんが、大変な作業です。
遺体確認を手伝う職員も大変です。
ご家族には、心のケアも必要です。
さて、奥さんを亡くされて遺体確認ボランティアを続けておられる
その男性がこの後どうなるのか、医師、いや人間として心配です。
自責の念から逃れられるか。
うつ、にならないのか……。
その男性の上司は、泣きながら、こう呟きました。
「彼は自分で死ぬかもしれないな」
「その方が幸せかもしれない」
遠くにいる非被災者は、何とひどい上司だと思われるでしょう。
しかし被災地にいると、それが「現実」なのだと茫然とします。
当然、子供たちは、現時点で、片親を亡くした「孤児」です。
全壊した小学校の前の電柱に、ある張り紙がありました。
「こんな赤ちゃんを知りませんか?」と可愛い写真が見えます。
迷い犬や猫の写真ではなくて、人間の写真が貼ってあるのです。
その写真を張られた男性の妻も、いまだに、行方不明です。
毎日、毎日、警察、自衛隊、機動隊が捜索を続けています。
我々はそんな現実から目をそらしてはいけないと思います。
ある日突然、どん底に落とされてどうやって生きればいいのか。
答えはないかもしれません。
しかし、そのような方が大勢おられることを忘れてはならない。