《0486》  1と250の差 [未分類]

低線量被ばくのリスクを巡る議論が活発になっています。
一家に一台の血圧計のごとく、一家に一台の線量計という
時代になるのでしょうか。

現在、「生涯ひばく100mSv案」の是非が議論されています。
自然放射線以外の内部被ばく+外部被ばくの基準値です。
100なんて、なんだか切りが良すぎる数字ですね。

100mSvを超えると、発がんリスクが0.5%上がるという
ICRPの考えに由来する数字だと思います。
覚えやすいけど、ピンとこない数字です。

計画的避難区域は、外部被ばくが年間20mSv、
一方、子供は、年間1mSv以下を目指すことになっています。
100、20、1、と覚えています。ただし、100は生涯値です。

さて、原発作業員の被ばく基準は、それらとは別枠です。
なんと、250mSvです。
1でも駄目なのに、250はOK???

それも事故後4日目の3月15日に、省令で
100から250mSvに引き上げられたのです。
誰も知らないうちにそうなっていたのです。

1で騒いでいる人が250を騒がないことが不思議です。
私は、多くの原発作業員は、多量の急性被ばくとともに、
外部被ばくや内部被ばくをしていると4月に警告しました。

事故後20日で400人以上が50mSvを突破し、
120人以上が100mSvを超えたと発表されました。
実態はその数字以上だったと想像します。

当初は、放射線防具も知識も不十分でした。
労働環境も生活環境も極めて劣悪でした。
労働者名簿すら無かったのです。

25年前、チェルノブイリ付近を偶然旅行していて
爆発を知らずに帰国した日本人を偶然知っています。
白血球は低下し、脾臓は腫れ、生死を彷徨いました。

急性被ばくの恐ろしさを、25年前に実感しました。
今回の作業員もきっと、大量に急性被ばくしているはず。
そして、白血病などの造血障害が出るかもしれない。

それを見越して、虎ノ門病院の谷口修一医師は、
「造血幹細胞」を採取して保存する計画を考えました。
いざという時に自分の血液を輸血することができる方法。

しかし、これはまだ政府に認められていません。
被ばく基準の中で作業しているのでその必要は無い
というのが理由であると聞いています。

幹細胞を末梢血中に出すために刺激するお薬が
未承認薬であるという課題もあると聞いています。
現在も議論中ですので、動向を見守っています。

しかし、作業員の生命、人権を考えれば、医師として
当然の提案であると、私は高く評価しています。
これを希望する作業員には、国費で実施すべきです。

彼らは、原発という見えない敵と戦う戦士です。
戦士にはそれだけの保障、待遇が必要なはず。
せめて、谷口プロジェクトを希望する人には叶えてあげたい。

5月末までに7800人の原発労働者が現場に入りました。
現在も沢山の下請け作業員が働いています。
大変厳しい高温環境下での作業です。

何人かの労働者は、すでに使い捨てにされました。
労働者は機械やモノではありません。
名前があり家族もいる「人間」です。

当初、彼らは「放射線管理手帳」もありませんでした。
十分な保護具も渡されていませんでした。

普段は厳重な「労働衛生行政」が、最も必要な時には
適応されなかった事実をどう解釈すればいいのでしょうか。

津波で、約2万人の命が奪われました。
しかし、原発では、まだ一人の命も奪われていません。

こんなことを書くと叱られるかもしれませんが、もし今後
原発での犠牲者が出るとしたら、作業員ではないか。

造血器障害でなくても、広島でのブラブラ病や、
ストレスによるメンタル不調などを危惧します。

フクシマの戦争は今も続いています。
これから10年、20年、ずっと「現在進行形」なのです。

1と250の差が、私は納得がいきません。
250の人こそ、真剣に考えなくてはいけないはず。

というわけで、さしあたり、子供さんと原発作業員の
健康管理から目が離せません。