《0540》 平穏死の条件(その1)/平穏死できない現実 [未分類]

昨日から「死の臨床研究会」という学会に参加中です。
「死」という文字が入った学会は珍しい、と思います。
ここでは、さまざまな「死」が論じられています。

今日からしばらく「平穏死」について、書いてみます。
勤務医そして在宅医として1000以上の死に接した。
自分自身が見てきた「死」をここで振り返ってみます。

「平穏死のすすめ」という本がベストセラーになりました。
著者の石飛幸三先生は、温厚な後期高齢者の外科医です。
現在、特別養護老人ホームの嘱託医をなさっています。

そこで、驚くべき現実に対峙されました。
老衰や認知症終末期の胃瘻があまりにも多い「現実」。
石飛先生は終末期の胃瘻について問題提起をしました。

本当に胃瘻は必要なのか?
本人が望んでいるのか?
胃瘻を止めたらどうなるのか?

様々な素朴な疑問を提示されました。
おそらく現場の医療者の多くは同じ気持ちでしょう。
しかし、最初に言う人は、大変勇気が要ります。

石飛先生は、「この本が出たら逮捕されるんじゃないか」、
「でも、もう老人だから逮捕されてもいいや」と考えた。
自らの身の危険を冒しながらこの本を書かれたそうです。

それくらい、日本において「死」はタブー視されます。
多くの普通の病院では「死」という言葉はタブーです。
しかし「死」は、現実として全ての人間に訪れます。

8割の日本人が、平穏死を望んでいるそうです。
しかし、8割の日本人が、平穏死できていない。
希望と現実が、見事に逆転しているのです。

「自然にポックリ逝きたい」が口癖の100歳老人が
ある日、お餅を喉に詰まらせて、白目をむきました。
家族は慌てて救急車を呼びました。

到着後、老人は集中治療室で人工呼吸器に繋がれました。
翌日、ご家族が私のところに相談に来られました。
「こんな延命治療は拒否したい。可哀そうだ・・・」

しかし一旦始まった延命治療は簡単には中止できない。
命は助かりましたが、自分で食べられなくなりました。
そこで胃瘻が造られました。

療養病床を経由して、老人ホームに移っていかれました。
特養には様々な理由で胃瘻になった患者さんが多くいる。
40万人の胃瘻患者数は、すごい数字ではないだろうか。

平穏死の条件の、第一歩は、このように
「平穏死できない現実」を知ることではないでしょうか。
先のご老人のご家族は、この現実を知らなかったのです。