《0548》 平穏死の条件(その9)/すぐに救急車を呼ぶヘルパー [未分類]

平穏死に至るまで、いろんな節目があります。
肺炎を繰り返して、寝込んで歩けなくなる。
認知症状が進んで、排尿排便の介助が要る。

在宅ケアの場合は、何度か「ケア会議」を開く。
延命治療についてご家族の意見を聞く。
主治医として、いろんな相談に乗る。

そうして、徐々に死期が近づいてきます。
在宅看取りの相談は、時間がかかります。
最終的には、家族に加えて親戚にもお話をします。

最後に「遠くの親戚」が飛び出て来て話が元に戻る。
そんな苦い経験を何度もしてきたからです。
だから念には念を入れて、親戚にもお話をします。

亡くなった後のことまでも、お話しをします。
ここが、病院と在宅の一番の違いかもしれません。
まだ本人は、そこそこ機嫌良くされています。

これだけの準備をして、平穏死を迎えようとします。
しかしある朝、介護に入ったヘルパーが急変に気がついた。
慌てたヘルパーは、反射的に、救急車を呼びました。

もし息があれば、救急隊は、救急病院に運びます。
そこでは心臓マッサージ、人工呼吸が行われます。
救急車を呼ぶとは、そういうことなのですが・・・

御家族は、「平穏死させたかったのに」と残念がられます。
病院での延命治療が始まったらもう誰も止められません。
もし中止したら医師が逮捕されるかもしれないからです。

もし息が無ければ・・・
救急車は警察を呼びます。
警察は第一発見者のヘルパーの事情聴取から始めます。

「長尾先生、助けてください!」
ヘルパーさんからこんな悲鳴電話がかかってきます。
だから言ったじゃないの、と言っても後の祭り。

あなたが警察を呼んだのですよ。
あなたが事件にしたのですよ。
そこまで言っても、まだキョトンとしています。

ヘルパーさんは自分の電話のせいだとまだ気がつかない。
「あなたのせいで、こうなっているだけですよ」
「あなたは在宅主治医がいるのを知っていますか?」

本当は、主治医に電話をかけて欲しかったのです。
しかし、ヘルパーさんは、そんな事を知りません。
私の講演を聞いたヘルパーさんは知っていますが。

しかし大半のヘルパーは、呼吸停止=119番だと思っている。
本当は警察も警察、かもしれません。
全部検視をしていたら、警察ももちません。

「看取りと決めたら、救急車を呼ばないで」ということ。
これを冊子に書いて講演で数え切れないほどお話しもして。
しかし、今日もヘルパーさんは、救急車を呼んでくれます。

というわけで、平穏死の条件9番目は、
ヘルパーさんに救急車を呼ぶ前に、在宅主治医に電話する
ことをあらかじめ理解してもらうことです。

PS)
昨日は、第二回医療・介護サービスの連携に関する懇話会に
委員として出席し、私は終末期医療のお話などをしました。

看取りの法律を市民はもちろん大半の医師も知らない
現実が話題にあがりました。

朝の往診、診察と、夜の診察、往診で深夜帰宅です。
昼休みに2時間の厚労省での会議が可能だなんて。
便利な世の中です。

なんだか不思議な1日でした。