《0551》 平穏死の条件(その12)/私が「特殊」なんだ [未分類]

毎日、書き込み、本当にありがとうございます。
私が「特殊」であることが、よく分かりました。
ヘルパーさんや施設の事情も少し分かりました。

救急隊員のみなさまのご努力にも日々感謝しています。
「死亡確認をしてもらうために救急搬送する」という
ご意見も市民のお立場からは当然だと思いました。

毎週1~2名の在宅看取りがありますが、
かなり特殊なことをしていると感じました。
法律は侵していないと自分では思いますが。

みなさまが言われていることはよく分かるし、
一方、自分が毎日していることも、現実だし・・・
両方が、日本の看取りの現状だと思います。

ここでは「予想された死」について書いています。
あくまで末期がんや老衰での在宅看取りの話です。
現在、私のような在宅医が、特殊なのでしょうね。

一方介護施設での看取りは難しそうですね。
介護士さんが上司から怒られる場合もある。
なにはともあれ119番は仕方がないのか。

バンバン看取っている施設もありますが、
全国的にはまだまだ少数派なのでしょう。
私が関わる施設でも看取り研修を行いますが。

一方、小児の在宅看取りの場合は、特殊です。
私が診ている在宅患者さんは小児から100歳まで及ぶ。
小児は生きるための在宅ですから看取りは想定しません。

しかし病気の諸事情で在宅看取りになる場合があります。
親に「在宅看取りなんてとんでもない」と言われました。
親が殺したと思われるかもしれないからです。

障害児を持つ親の間では、在宅看取りはタブーだそう。
必ず救急車を呼んで、救急隊員に見せておかないと
後で大変なことになる、と親に教えてもらいました。

病院のお医者さんが当院に見学に来られて、
「長尾先生、よく捕まりませんね」と言われる意味が
よく分かりました。

今はこうして書いていますが明日は檻の中かも知れません。
後期高齢者の石飛幸三先生でさえ、逮捕覚悟で本を書いた。
私も一度くらいは牢屋に入れられるのかな?と感じてます。

人の生死に関わる仕事だから、仕方がないのでしょう。
末期がんや老衰の看取りだけでも「逮捕覚悟」ですから、
本当に医療ミスを冒したら確実に「逮捕」されるでしょう。

福島県大野病院事件を覚えておられますでしょうか?
出産時に妊婦さんが死亡されたことで産婦人科医が
逮捕され、白日の下で、手錠をかけられました。

2年6ケ月間収監されましたが、結局無罪判決でした。
現在は産婦人科医として地域医療に復帰されています。
その医師が、先々週、尼崎に来られて話をされました。

彼の話を聞いていた医師は全員泣いていました。
私も涙が止まりませんでした。
自分も明日その医師と同じ事が起こるかもしれないから。

医師全員が彼に自分自身を投影していました。
医師は失敗したら簡単に逮捕される職業です。
だからどうだと言っているわけではありません。

ただ、そのような職業である、という事実。
逮捕されなくても訴訟になれば、数年間は
法廷に立つことになり、本業ができない。

その事件を契機に、町の産婦人科が減りました。
多くの産婦人科がお産を止めまたのは有名な話。
産婦人科や外科に入局する医師も減りました。

ハイリスク科という言葉が使われています。
だから、医者も人の子。
逮捕されない道を選ぶ医者を止めることは容易ではない。

しかし、妊婦さんの笑顔を見たい、という医師もいます。
しかし、その笑顔の裏には「逮捕」の2文字があります。
大学教授であっても、考えるのは「逮捕」の2文字です。

話が飛びました。
このブログを書いている長尾医師も逮捕されるかもしれない。
これが日々、在宅看取りをしている一在宅医の本音です。

逮捕されたらメタボが治るかも、なんて想像することも。
小心者の私は、最初はビビりながらの在宅看取りでした。
しかし50歳を超えてから少し開き直りが出てきました。

平穏死の条件の12番目です。
尼崎の長尾医師のように、在宅看取りをする医師は特殊な
医師だということをみなさんが知ってその上で考えること。

平穏死への道は決して平坦ではないことが見えてきました。
平穏死や看取りの周辺にはざまざまな「現実」があります。
全てをオープンにして議論することから始まるのでしょう。