《0583》 あるがん専門看護師さんの想い出(その3) [未分類]

次の日の朝、約束の時間に、初めて彼女のお家を訪ねた。
かわいいワンちゃんがいるようだたが、夫が別室に隔離した。
彼女は、昨夜よりくつろいだ表情でソファーに座っていた。

息が苦しそうだった。
介護用ベッドが必要だとすぐに分かった。
しかし昨日、ケアマネに連絡し今日ベッドが入る約束になっている。

40歳以上の人が介護保険を受けるには、病名に制限がある。
一昔前までは、末期がんはいくつかの病名の中に入っていなかった。
だから昔は腰痛があれば「腰部脊柱管狭窄症」という病名をつけていた。

介護保険では、40歳から65歳未満を、2号保険者と呼ぶ。
65歳以上は病名に関わらず介護が必要になれば認定される。
なぜ1号と2号に分けるのか、私には理解できない。

要するに65歳以下は、病名によって差別されているのだ。
末期がんがその病名に入ったことで混乱は少し緩和された。
しかし、要介護認定までの「期間」も問題だ。

認定調査と主治医の意見書を合わせて介護認定審査会で判定する。
従って、申請から認定まで、1カ月強かかるのが介護認定作業だ。
待てずに亡くなっていくひとを沢山見てきた。

末期がんの平均在宅期間は、1カ月半と言われている。
しかも、亡くなる直前まで結構動ける人が多い。
中には、亡くなる当日まで動いて食べているひともいる。

介護認定が決定するまでに亡くなってしまうことが実に多い。
審査委員会では既に亡くなっているのに「非該当」と出ることもある。
ちなみに介護用ベッドは、「要介護2」以上でないと借りられない。

惜しくも要介護1の場合は、主治医が「ベッドが必要だ」という
意見書を書くと、介護保険でベッドが借りれることになっている。
しかし、そもそもなぜこんなに面倒くさい仕組みになってるのか?

若い人にとっては自分が介護保険のお世話になることは、全く想定外。
考えてみれば10年間合計50万円もの介護保険料を払ってきたのに
人生最期に介護ベッドのレンタル料の2千円さえ認められないことすらある。

ちなみにその場合、残りの差額18000円は誰が負担してきたのか。
ケアマネが自腹を切る、、ケアマネ事業所が「かぶっている」のが実情だ。
そんな馬鹿な!と思われるかもしれないが、それが制度の狭間というもの。

そもそも、介護保険は脳梗塞など、動きが緩やかな病気を想定している。
末期がんなどの1カ月位で激しく動く病気には対応できない制度なのだ。
それではいけないということで、昨年、厚労省から改善通達が出ている。

「末期がんの認定調査は早くやるように!」というお達しだ。
しかし残念ながらまだ全国の役所には充分に周知されていないようだ。
役所が知らない位だからそれを知らないケアマネさんを責められない。

病院では医療保険1本だが、
病院を一歩外に出ると介護保険と二本立てになる。
こんな当たり前のことすら忘れている医療者もいる。

また、前置きが長くなった。

なんと最初に訪問した日に、ちゃんと介護ベッドが入ったのだ!
もちろんケアマネさんが頑張ってくれたからだ。
これまでのいろんな活動が、少しは患者さんの役に立った瞬間。

彼女は病院の看護師さんだから、こんな裏事情はご存知無い。
しかし、「こんなに早くベッドが入るなんて凄い!」と
無邪気に喜ばれる顔を見て、私たちも本当に嬉しかった。

これで、在宅医療の第一歩を無事に踏み出せた。
そう、医療と介護の連携は、介護ベッドの調達から
始まるのだ、。

(つづく)