《0584》 あるがん専門看護師さんの想い出(その4) [未分類]

「先生は、いつ来てくれるのですか?」
これが、いつも最初に聞かれる質問だ。
家に伺うと、まず在宅医療の仕組みから説明が始まる。

がん終末期の在宅医療の構成要素は制度で決まっている。
医師の訪問が最低週1回、看護師の訪問が最低週3回。
最低でも、週4回、医療者が訪問することになっている。

彼女の場合は、火曜日に私が、月、水、金に訪問看護師が
訪問することになった。
しかし多くの場合この「計画」は、すぐに崩れる。

麻薬による痛みのコントロールや呼吸困難、便秘、
不眠、全身倦怠感などの「苦痛」症状を緩和するために
様々なお薬を使うが、日々、その微調節が必要だからだ。

彼女は本当に素直な「医療者の患者」だった。
訪問看護師や私の話を、いつも素直に聞いてくれた。
だから麻薬を中心とした、腹痛や呼吸困難の緩和も1週間でできた。

訪問看護は、3人の看護師が担当した。
24時間365日なので、とても1人では対応できない。
しかし医師は私一人で24時間365日対応しているが・・・

彼女は、3人の看護師にさっそく、それぞれにあだ名をつけてくれた。
看大先輩の看護師の看護に、私としても多少の不安を持っていたが、
すぐに杞憂だと分かった。

病気の先輩看護師と、後輩訪問看護師の温かなやり取りが、毎日続いた。
一方、私は、週1回の出番。
私が予定日以外に頻繁に来るようになったら危ないぞ、と予め説明してある。

そうでないと、私の体がもたない。
患者さんより先に本当に過労死するのでは?と感じる時がある。
患者さんには、「僕の方が先かも?」と冗談をいう時もある。

患者さんに「それは困る」とか「先生も体を大事に」と励まされる。
本当に、患者が先に死んで、医者が後に死ぬとは限らない。
実は話が脱線するが、昨日、同世代の優秀なある在宅医の朴報に接した。

2カ月前にも、同じようなことがあった。
40歳代で急逝した優秀な在宅医もいた。
在宅医は短命だと感じる。

医者の寿命は平均より10年短い、とある本に書いてあった。
ならば在宅医の平均寿命は、さらに短いのではないだろうか?
だから患者さんに「僕の方が先かも?」なんて言うのは実は冗談ではない。

こうして彼女と、「死」の話をいっぱいした。
彼女も病院のベテラン婦長さんとして多くの死に接してきたと言う。
しかし「死を自分のこととして考えたことは一度も無かった」とも、言った。

今日、11月23日は、毎年「在宅医療の日」だ。
全国の在宅医療関係者が、東京に集まり推進フォーラムをやっている。
私も参加し、夜はその若くして逝った在宅医の死を同志とともに悼む。

(つづく)