《0585》 あるがん専門看護師さんの想い出(その5) [未分類]

「自宅は世界最高の特別室」

彼女の部屋はいろんな意味で素敵で、私もくつろげた。
壁一杯に身内や友人からの手紙や写真がいっぱい張ってあった。
気合いが入った織り鶴は、長い闘病生活を象徴していた。

子供さんや旦那さんらがいつも交代で付き添っておられた。
みんな、心配で不安でたまならいのが感じられた。
私の一番の役割は、本人とみんなの不安を軽減することだった。

しかし末期がんの在宅現場は、おそらく世間のご想像より明るい。
もちろんその家家の家風や家族関係にもよるが、
総じて、病状の割には、明るい雰囲気のことが多い。

彼女自身の療養生活も、とても明るかった。
それは、自宅で家族とともに生活し、安心して暮らせるからだろう。
天気のいい日には、家族に車椅子を押してもらい近くを散歩されていた。

「私はね、元気だったころ、病院で在宅医療のパンフレットを見ると
腹が立ったのよ。なんて酷いことを言う医者がいるのかと・・・
でも、今やっとその意味が分かったのよ」

「え?どういうこと?」

「がんの患者さんを家に帰そうなんて考えたことも無かった。
でも自分が、末期がんになって初めて先生が書いている意味が分かったわ。
たしかに、自宅は世界最高の特別室だわ・・・」

これだけの看護師さん、しかもがん専門の看護師さんでも
本気で「在宅療養なんてとんでもない!」と考えていたのだ。
それを一般の人に理解してもらうのは、なるほど至難の業だと思った。

そこで彼女の言葉を、映像として記録しておこうと考えた。

(つづく)

PS)昨日は、在宅医療推進フォーラムに参加しました。
午後は、被災地の医療支援についてのシンポジムでした。
仮設住宅での在宅医療は、日本の医療の将来を象徴しているようです。

気仙沼で支援活動しておられる永井康徳先生や、
黒田裕子看護師さんらのお話をうかがいました。
市ヶ谷のマザーテレサこと秋山正子看護師ともお会いしました。