《0588》 がんと認知症が合併した!(その2) [未分類]

「見事に穏やかな日々」

認知症と肺がんの脳転移のダブルパンチに見舞われた彼だが、
驚くほど、平穏な日々が続いた。
それは認知症の終末期というより、脳腫瘍の終末期の経過に感じた。

脳腫瘍という病気は比較的稀だが。時々在宅医療を頼まれる。
一方、肺がんなどからの脳転移も同様に時々診る機会がある。
経過に大きな差は無いように思うので敢えて両者を区別しない。

脳の腫瘍が大きくなると、いくつかのことが起きる。
1意識レベルが不安定になる。終末期は寝ている時間が長い。
2頭痛、嘔吐、嘔気などの脳圧亢進症状が見られる・・・

2は困るが、1は決して悪い事では無い。
2に対しては、グリセオールという脳圧を下げる点滴をする。
他の病気でこのお薬を使うことはあまりない。

一方、病院では終末期にわざわざ麻酔で意識を落とす。
これをセデーションと言うがわざわざその必要がない。
自然のセデーションがかかった状態になる。

それは本人にとっても私たちにとっても悪い話ではない。
脳腫瘍の方は、静かに最期を迎えられる。
平穏死そのものだと、いつも感じる。

以上はあくまで終末期の話だが。

彼は、天気のいい日は、外を奥さんと歩いて散歩していた。
手をつなげば、結構な距離を歩けた。
しかし、バランスを崩し易いし迷子になるので、必ず付き添いを要した。

春にはクリニック近くの公園で花見を行うが、車椅子で来てくれた。
私の下手な歌を不思議そうな顔で眺めていた。
そかし、徐々に歩くことが困難になってきた。

訪問時には、居間にチョコンと座っていつもテレビを見ていた。
話しかけると、ニコニコしながら、一生懸命答えてくれた。
あまりにも幸せそうな毎日なので、変わってもらいたい位だった。

しかし、ついに徐々に寝ていることが多くなった。
いつも静かなヒーリングミュージックが流れていた。
ある日訪問したら、ご夫婦とも幸せそうに眠っていた。

2人の寝顔を見ながら、本当に仲のいいご夫婦だと改めて思った。
2人の幸せな寝顔は、世間の「末期がん」のイメージとはほど遠かった。
しかし、今度は、物を飲み込むことが段々と困難になってきた。

(つづく)

PS)
昨日は、平穏死を望む圧倒的多数の患者さんの希望を叶えるために
どのような法律が必要なのか、東京で、有識者と議論していました。
今日は、広島に呼ばれて、また平穏死のお話をいたします。

このブログと私生活は重なりながら、生きています。
もちろん、毎日、多くの患者さんを診ています。
風邪の患者さんで大混雑です。お気をつけください。