《0589》 がんと認知症が合併した!(その3) [未分類]

「意識朦朧でも最期まで食べていた」

徐々に意識レベルが落ちて食べる量が減ってきた。
ご家族が少しずつ食べ物を口に入れて、食べさせていた。
寝ながら食べる、といった様子のようだった。

亡くなった後になって、その時のビデオを見せて頂き驚いた。
まさに寝ながら食べている!
こんな状態でも食べれるんだ、とあらためて感心した。

話が飛ぶが、現代医療は、食べることをあまりにも簡単に諦めすぎる。
誤嚥性肺炎を起こすとか理屈をつけて早々と胃瘻に切り替えてしまう。
しかし最近の歯医者さんの中には食べることを大切にする人が増えた。

医者より歯医者さんの方が、食べることに関しては粘り強い。
食べることに拘り、そのような歯医者さんを探すことが大切。
歯を削らない歯医者さん、だ。

話を戻そう。

進行した認知症があり脳転移のため意識レベルが低下していても食べられる。
これは、私には衝撃的だった。
無論、ご家族の献身的な介護がなければ成立し得なかったことだが。

脳腫瘍の方を何人か思い出してみると、みなさん最期まで食べておられた。
食べることの重要性をまた教えて頂いた。
脳転移があっても本当に最期まで食べていた。

さすがに最期の数日間は、口からほとんど入らなくなった。
点滴を希望されたので毎日、少量の点滴を行った。
胸の痛みは、貼り薬の麻薬で抑えることが出来た。

ついに、静かに最期を迎えられた。
ご家族は、覚悟していたので、淡々としておられた。
最期まで食べれて良かった、という言葉が出て来た。

この夏、久々にお家に寄ってみた。
遠い故郷に納骨に行かれたと言う。
そのビデオをお借りして眺めていた。

実家のお墓に入るシーンまでちゃんと記録されていた。
ご家族の深い想いが亡くなって1年経ってから伝わってきた。
ご家族からお借りした長い記録映像には愛情が溢れていた。

昨年の花見で歌う私の姿が映っている。
それをボンヤリ眺めるその患者さんの顔も映っている。
家族と食事介助をする訪問看護師の働きぶりも映っている。

全部、知らな世界、気がつかなかった視点。
亡くなって1年以上経ってから本当の療養生活を知り愕然とした。
訪問看護師の働きぶりが、あまりにも素晴らしかったからだ。

食べることは、看護師さんが支えていた。
やはり、在宅医療は看護師さんなのだ。
そんな想いをさらに強くした。

(このシリーズ終わり)

PS)
昨日は、広島施設医療勉強会に呼ばれて講演しました。
テーマは「施設での看取り」。
看取りの文化と制度の改善をお話ししてきました。