《0604》 下顎呼吸(その2) [未分類]

下顎呼吸とは最期の息のこと。
顎の先を振りながら呼吸する。
そうなるともはや意識は無い。

ここまで来れば、死期は真近だ。
しかし、二度騙されたことがある。
一度は、数年前のこと。

肺気腫と老衰で徐々に衰弱した老人が徐々に
徐々に衰弱していった。
ついに意識が無くなり下顎呼吸になった。

「もうあと1時間以内です」。
家族にそう説明して一旦家を出た。
しかし1時間たっても携帯電話が鳴らない。

戻って見てみると、まだ下顎呼吸だった。
10人以上の家族が今か今かと見守っていた。
「もう、間もなく止まると思います」とゆっくり説明。

そう言った手前、私もしばらく一緒に見守った。
しかし止まりそうで、止まらない。
深夜だったので「泊りましょうか?」と言ってみた。

結局一旦、自宅に帰って待った。
知らない間に寝入ってしまった。
朝になり慌てて携帯を見たが着信が無い。

こちらから電話すると、まだ息をしていると。
慌ててまた診に行った。
ほんの少しだけ、意識が回復した。

しかし食事も摂れないので、1日以内だと思った。
こうしてまた1日が経過した。
翌朝、さらに意識が回復した。

なんと水を飲んだ!
3日間の長い眠りから目を覚ましたかのように。
そして、ついにおかゆを少し食べた・・・

結局、それから7年間生きた。
一時は室内歩行可能な状態まで回復した。
7年後に再度、衰弱して「下顎呼吸」になった。

7年前と同じ説明をした。
家族は少し笑っている。
多少、オオカミ少年状態。

果たして、2度目の下顎呼吸は本当に「最期の息」だった。
歳に不足は無い大往生だった。
「あれから7年」と、昨日、ご家族が挨拶にみえられた。

下顎呼吸から生還した患者さんをはじめて経験した。
いまだに何故なのか、サッパリ分からない。
その後もう1例だけ、下顎呼吸からの回復を経験した。

(つづく)