《0610》 尊厳死の家族会議(その1) [未分類]

最近、やたら不思議なことがよく起こる。
先日、少数の有識者のメーリングリストで
終末期の延命措置に関する議論をしていた。

本人が延命措置を拒否していても家族が
反対した場合。本人の意思をどう扱うべきか。
現在、これに応える法律は無い。

コンビニに停車してご飯を食べながらパソコンを抱えて
しばしそんな熱い議論を交わしていた。
考えてみれば、凄い時代に生きている。

ちょうどその時、クリニックから電話が鳴った。
市外の患者さんからの、往診依頼だった。
普段は、市外の患者さんの在宅依頼は断っている。

しかし、その日は珍しく1時間ほど時間に余裕があった。
魔が差したのか、気まぐれなのかその在宅依頼を受けた。
市外と言っても、車で20分ほどの距離だった。

「本人が言う事を聞かなくて困っている」との情報しかない。
しかし、何事も当たって砕けろが、私のポリシー。
たとえ無駄足に終わっても、行けば後悔は無い。

特に「最初の出会い」には、「予期せぬサプライズ」がある。

部屋に入ると、老人が苦しそうな呼吸で寝ていた。
慢性腎不全で人工透析を勧められているとのこと。
しかし本人は、固く拒否しているとのこのだった。

腎機能の推移が詳細に記されたノートを見せて頂いた。
腎機能に関しては大変厳しい数字が並んでいた。
人工透析直前といった内容だ。

おまけに慢性心不全の急性増悪を併発している。
呼吸が速いのは、心不全のため。
すぐに心臓喘息と分かった。

顔色も悪く、かなり深刻な病状だった。
このままだと死んでしまう・・・
困ったな。

透析などの処置は自宅では無理だ。
死なないためには入院しか選択肢はない。
本人に直接聞いてみたが入院も人工透析も強く拒否された。

ご家族は苦虫をつぶしたような顔をされている。
ご家族は、すぐ横にあるかかりつけの一流病院に
一刻も早く入院させたいという意向だった。

私に入院をもっと強く説得して欲しいとのこと。
しかし本人が以前から頑固に入院を拒否しているので
半分諦めているようでもあった。

ここまできて、はたと気がついた。
さっきまで、パソコンで有識者と議論していたテーマと
全く同じ状況が、いきなり目の前で展開されているのだ。

本人に何故、人工透析を拒否されるのか再度聞いてみた。
「私は80台半ば。無駄な医療費を使うのは勿体ない」と。
さすがに返す言葉は無かった。

さらに驚いたことに、昔から日本尊厳死協会の夫婦会員だった。
私が関西支部の支部長と知らずに、家族は往診を依頼して来た。
そんなこんなで、1時間ほど話込んだ。

亡くなる話をしながらも、本心は私も諦めていない。
看護師に頼んで、利尿剤やステロイドの注射を行った。
呼吸困難を緩和するため麻薬を処方して、説明もした。

病状が切迫しているだけに、深夜に再度訪問した。
ご家族数人と、再度詳しい病状説明と尊厳死の話をした。
帰宅すると日付けが変わっていた。

実はその前夜も、別の家で全く同じようなことがあった。
本人は認知症なので御家族が自宅での尊厳死を選ばれた。
まさに連日連夜、尊厳死の相談が続いている。

(つづく)