《0747》 昔の在宅と、今の在宅 [未分類]

研修医君と嵐のような夜診をしていました。

いつも何故か混雑の中、電話がかかってきます。

「調子が悪いので往診をお願いします」と。

 

1ケ月に1度のペースで外来に来られる患者さん。

最近2ケ月は、具合が悪いのか家族が代理で受診。

「めまい」がするので往診で診て欲しいとのこと。

 

実は数ケ月前に当院で、あるがんを発見しました。

病院で確定診断が下り抗がん剤医療を受けている。

その間に、具合が悪くなったようでした。

 

午後7時半、夜診の最後の患者さんを診てから

雨の中、新人医師を車に乗せて走り出しました。

もちろん、はじめて伺う家です。

 

車の中で、新人医師に基本的なことを説明しました。

 

これは単なる往診。

在宅医療とは似ているが違います。

この違い、分かりますか?

 

現在の在宅医療制度は、契約の概念と思って下さい。

月に2回以上訪問診療して、携帯電話の電話番号を

教えて24時間365日対応するのが在宅医療制度。

 

よく昔の医者は往診したが、今の医者は往診をしない。

在宅医療をしないのは何故なのか? と、言われます。

実は、昔と今では、少し事情が違います。

 

昔は、往診という概念しかありませんでした。

しかし現在は、在宅医療制度という新しい概念ができ、

訪問診療+往診が、基本形になりました。

 

訪問診療は、病院であれば回診に相当。

患者さんの都合では無く、こちら(医療者)の都合。

一方、往診は100%患者さんの都合。

 

だから、訪問診療だけして往診をしないのは困る。

それで24時間加算を取っていると、約束が違う。

在宅医療の要は、あくまで「往診」にあるんだよ。

 

そのように説明しました。

 

最近、「在宅医療を始めました」という若い開業医が多い。

よく聞くと、訪問診療のみを開始したようです。

老人アパートのような建物を業者が紹介してくれたと。

 

新人医師にさらに尋ねました。

 

訪問診療と往診、どちらが大切だと思う?

 

もちろん、往診のほうが大切です。

往診はその日のうちに行かないとダメです。

それもできるだけ早く、時間との勝負です。

 

往診は、蕎麦屋の出前と同じ。

時間がかかっては、意味が無くなります。

呼ばれてすぐ行く。それが往診です。

 

しかしそんな基本的な事すら知らない医師が少なくない。

 

往診は、アウェイの医療です。

それも素手で戦わなくてはいけない。

素手とは、検査機器も無く自分の五感だけが頼りの世界。

 

アウェイで素手?

 

そう、ほとんどの医師が、ホーム(医療機関)での医療

しか一生経験しません。

それに、素手で戦う経験もほとんどないのです。

 

偉そうに説明していたら、患者さんの家が近づいてきました。

(続く)