《0753_01》 脱水が病人を元気にした [未分類]

その患者さんのことはすっかり忘れていました。

毎日のように往診や在宅医療の依頼があるので

3週間もたてば、頭の中からほぼ消えています。

 

しかし3週間後、また電話がかかってきました。

前回はめまいでしたが今回は「食べられない」と。

患者さんの顔が、ぼんやりと浮かんできました。

 

在宅ミーテイングを終え、慌てて昼飯をかけこみ、

研修医君と一緒に午後一番にあの家を訪問しました。

まだ、「往診」です。

 

案の定、3週間前とは別人のようにさらに衰弱した

病人さんが静かに畳に横たわっていました。

呼吸がとても苦しそうで、ゼイゼイいっていました。

 

末期がんの終末期に心不全を起こしているようでした。

もちろん、胸水も溜まっているようでした。

すぐに看護師に電話して、利尿剤の注射と内服を依頼。

 

聞けばあの翌日、車椅子で抗がん剤の点滴に通ったと。

それ以来、さらに食べられなくなり、痛みも増したと。

さらに、先週、救急車で運ばれて胸水を1ℓ抜いたとも。

 

「先生は胸水を抜けますか?」と家族が聞いてきました。

「もちろん、何度もありますよ。

でも、最近は年に1回あるかないかですね」

 

「そもそも、腹水や胸水はあまり抜きたくないんです」

「・・・・」

 

ご家族は、胡散臭そうな顔をして私を眺めています。

ここからの説明は、ゆっくり時間をかけて行います。

できるだけ分かり易く話すしかありません。

 

・なぜ、お水が溜まるのか?

・お水とは、一体何なのか?

・抜く以外にどんな方法があるのか?

 

お水には、アルブミンというそれはそれは大切な

栄養素が沢山含まれていること。

水を抜くことは血液を抜くことに似ていること。

 

仮に抜いて一瞬楽にあっても、すぐにまた溜まること。

食べないからと点滴をすればさらにお水が溜まること。

しかし自然な脱水になれば、お水は自然に引くこと。

 

人間が生きるのに、仮に1日1ℓの水が必要としましょう。

我々はそれを飲み物や食べ物に含まれる水分で得ている。

しかし、もし飲まず食わずで1日過ごしたらどうなるか?

 

生きていくには、必ずお水が必要です。

外から水が全く入って来なければ、体内の水を使うはず。

そう、少なくとも、0.5ℓの水を使っては生きるはず。

 

2日間飲まず食わずなら1ℓの水が体内から消えて無くなる。

それは、1ℓのお水を抜くことに相当するんじゃないかな?

まあ胸のお水と足の浮腫みのお水などの合計だけれどもね。

 

自然な脱水を待つことがまずは一番です。

こんな場合は、「脱水は友」なのです。

ついでに言うなら、脱水は苦痛を緩和してくれます。

 

加えて利尿剤を使うという方法があります。

濡れたタオルを絞るようなイメージです。

尿として水分を出すと、アルブミンは失われません。

 

ここまで話しても、ご家族はまだポカンとされています。

 

町医者なんてそう簡単に信用してもらえないもんだよ。

たとえ何十年町医者をやっても、病院の研修医の方が

患者さんにとっては上なんだよ。世の中そんなもんだ。

 

研修医君に自虐的に呟きながら、説明します。

 

それでもご家族は半信半疑のようなので、ついに、

書きかけの本のタイトルを口走ってしまいました。

 

「胸水、腹水、抜いてはいけない!」って本を

今、書いているんですがねー。

(続く)